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バスカッシュ!ログまとめ(ファルアイファル中心)

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ジョイント(ファルコンとアイスマン)


 暗闇の中でも薄く輝きを帯びた半身。
 現実離れしたその鋭くも淡い光にファルコンは密かに息を飲んだ。
 内心の動揺は相手には悟られてはいないだろう。そんな根拠のない自信がファルコンにはあった。
 しかし組み敷く相手は薄く笑んでいた。あまりこの男が浮かべない皮肉げな笑みである。
 互いの息遣いしか存在しなかった密室に、静かに音が生まれる。

「驚きました?」

 皮肉と子供の無邪気さを織り交ぜた奇妙な笑みと声音だった。
 発せられると同時、ファルコンは己の動揺を隠し切れていなかったことに舌打ちしたくなった。所詮根拠のない自信に支えられたものなどそんなものだ。
 だんまりを決め込んでも意味がない。
 何かを言っても何も始まらないし終わりもしないが、そんなことを言ってしまえばこの行為自体が無意味だ。
 だが無意味な言葉の応酬を楽しむのもこの行為の内に含まれる。
 そう思えば言葉までも自然に色を孕む。

「ああ、驚いた。昔は見せてもくれなかったからな」

 少し相手を責める口調で言えば、アイスマンは一際笑みを深くした。

「少し後悔してます。貴方に僕自身を曝け出せなかったことが」
「嘘を吐け」

 思わずファルコンは呆れ混じりの溜息を吐いた。
 この男が一度でも自分にそんな素振りを見せただろうか。答えは否だ。
 こちらの欲情混じりの視線にもこの男は気付かなかった。
 アイスマンは好意以上の感情に疎かった。愚鈍だったといっても差し支えない。
 好意はあくまで好意であり、懐きはするがそれ以上の事はなかった。
 あそこまで懐かれて自惚れるなというのが無理な話だった。自分は別に自意識過剰ではなかったと思う。
 人好きする笑みを浮かべるこの男は、相手を勘違いさせることにかけて天才的ともいえる。

「貴方がその気だったなら抱いても良かったのに」

 今度はアイスマンが不満げに漏らす。
 ファルコンは堪らず舌打ちした。この男は一体何なのだ。
 腹立たしさに任せて、噛み付くように唇を押し付けた。
 どちらも互いに瞳を閉じない。
 至近距離過ぎて相手の顔がぼやける。
 それでもアイスマンの瞳が細まる様をファルコンの瞳ははっきりと捉えていた。
 細まった真紅の眼光はそんなものかとファルコンを煽り立てる。
 それならば、とファルコンは突き刺すように舌を口内に捩込んだ。喉が上下する感覚。アイスマンの反応が一拍遅れた。
 それに少しだけ苛立ちが収まる。
 相手よりも優位に立っているという事実は、いつどんなときでも人の征服欲の糧になる。
 それはファルコンも例外ではなかった。人よりも肥えた欲望の獣が数年越しの餌に舌なめずりした。
 何処となく色事には無関心そうな顔をして、アイスマンが返してきた舌遣いは慣れたものだった。
 フェミニストのくせに、とよく分からない毒を内心で吐き捨てる。
 自分は彼が純情であることに期待していたのだろうか。
 その期待は男ならば誰でも抱く夢想だ。
 自分も彼もいい年をした男だ。
 自惚れでも何でもなく、身体を慰め合う相手ならより取り見取りだ。
 むしろこういった濡れ場に慣れていない方がおかしい。
 想いを寄せた相手の初めては自分が貰いたいなど、旧石器時代の妄想だ。
 声も立てずに唇が離れる。どちらからともなく熱い吐息が零れた。

「……しつこい」

 睨み付ける眼光にそれほど恐怖は感じない。ファルコンはおどけるように肩を竦めた。
 いつもの丁寧な口調ではないので、アイスマンの本心が見えたような気がする。

「そりゃあ念願叶ってのキスだからな」

 己の熱い唇に乗るのは人の悪い笑みだろう。鏡を見なくても分かる。

「今までの俺の執着だと思っとけ」
「諦めの悪い男は嫌われるそうですよ」
「憎まれてきた相手に嫌われるも何もないだろ」

 それもそうだ、とアイスマンはようやく落ち着いた呼吸で擽ったそうに言った。
 ファルコンも自分の言い草が可笑しくて堪らなかった。浮かべそうになった笑みを隠そうとアイスマンの肩口に顔を押し付ける。
 顔を埋めたところはちょうど肉と鋼の境目だった。

「……熱いな」

 生体部分の熱だけではないだろう。ファルコンの手が掴む義肢の腕部分も、ファルコンの掌からの熱により生温くなっていた。
 剥き出しの鋼鉄に錯綜的な想いを抱かずにはいられない。
 ファルコンがまじまじと組み敷く裸体を見ていると、相手が薄い唇を開いた。

「萎えませんか?」
「何がだ」
「機械の身体なんて」
「義肢だろう」

 ファルコンが顔を上げると真紅の瞳は悲しげに笑んだ。

「剥き出しの金属に口付ける貴方を、私が個人的に見たくないだけです。失礼しました」

 続きをどうぞ、と行為の続行を投げかける視線をファルコンはあえて無視した。
 彼の策に乗ってやるのも優しさだが、自分達の間にそんな柔らかなものは必要ない。
 生温いシーツの海で乱れ明かす夜など、求めてはいないのだ。

「人工皮膚なんてモン貼り付けてみろ」

 首筋へ唇を押し付け吸い付く。
 跳ね上がりそうになる相手の身体を更に寝台にきつく縫い付ける。
 ん、と掠れた声に満足してそっと顔を離せばアイスマンの肌に鬱血の跡が残った。
 その跡を視認し、今度はすぐ側の動脈へ。
 皮膚と皮膚を介してもアイスマンの鼓動と脈打つ力強さを感じる。
 一際柔らかな皮膚に軽く歯を立てる。素直な恐怖に身を強張らせた彼の反応が面白い。
 ファルコンは喉の奥で笑った。
 薄く歯型がついた皮膚をぺろりと舐めあげれば組み敷く身体は尚強張る。

「そんなもの噛み千切ってやるよ」

 強張る身体とは反対に、赤い瞳に浮かんでいたのは何故か安堵だった。


090916(090823)