BASARAログまとめ(腐向け)
だからこそ天上は極楽と言われるのだろう。そこには美しい女しかいないのだから。
あの竜が刀を振るう様は確かに美しい。だがそれは、女のような美しさとは違うのだ。
艶やかでありながら力強く、野暮であるはずもないが粋とはまた違う。
言いようのない振る舞いは「美しい」と言うより他ない。
「独眼竜殿は鳥になりたいと、以前独り言のようにおっしゃっておられた」
否、独り言であったのだろう。
たまたまその場に幸村がいただけで、あれは誰にも聞かれるはずのなかった言の葉だ。
そうでなければあのような弱々しい声を竜が発するはずがない。
「あの方は、飛ばぬのだろうか」
「……さあ。飛べないんじゃないの? 人間様はどう足掻いたって鳥にも竜にもなれやしない」
あるのは地を駆ける脚と、空を切る腕だけだ。
足は地から離れられず、手は空を掴めない。
「俺にはやはり、あの男がこんなものを面白いと言える訳が分からない」
何か苦いものを吐き捨てるように、幸村は静かに言った。
ぱたりと閉じた書物は空に溶けることもないような深い藍だった。
蛇がすいと川を泳いでいく。
蛇腹を右に左にとうねらせ、澄んだ水の中を下っていく。
「竜は空を飛べないね」
「何故だ」
カンッと硬く澄んだ音がした。
見れば下っていた蛇が頭を岩に縫い付けられている。
その頭を止めているのはよく見慣れた苦無だった。
「きっと泳ぐしかないんじゃないかな。だってほら、羽がない」
090705(090629)
作品名:BASARAログまとめ(腐向け) 作家名:てい