二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

drrrイザシズログまとめ

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

ドグラ・マグラ


※臨也さんが電波過ぎてもはや別人。
アニメ版臨也と静雄と考えれば読めなくもないと願いたい。
ほんのりシズイザ。



「シズちゃんシズちゃん、ちょっとアリストテレス的な世界に埋もれてみない?」

 時間帯を全く考慮しない電撃的ともいえる訪問。
 しつこく鳴るチャイムを無視して布団に潜り込んでいたのに、その訪問者は勝手にずかずかと家に上がり込んできた。
 臨也は中身のよく分からない大荷物を床に降ろすと、狸寝入りを決め込んでいた静雄を布団の上からぺしぺしと叩いた。
 静雄はその存在を追いやるにはどうしたらいいかと一瞬思案、布団を掴んでくるりと丸まることを選んだ。

「起きてるなら付き合ってよ」
「…………」

 ぺしぺしぺしぺし

「ちょっとシズちゃん、放置プレイなんてどこで習ってきたの?」
「…………」

 ぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺし

「シーズーちゃーんってば」

 ぺしぺしぺしぺしぺ――

「うるっせぇぇぇええー!!」

 布団の上からずっと軽い力で叩かれ続け、苛立ちばかりが募った結果――静雄は布団の上にいるであろう人物を吹き飛ばす勢いで布団を剥いだ。
 布団を剥ぐ瞬間に少しだけ掛かっていた相手の体重が離れる。
 軽く呼吸を整えれば、目の前にはぐちゃぐちゃになった布団といけ好かない笑顔。やはり臨也は静雄が布団を剥ぐタイミングを測って身を避けたらしい。
 最悪の起床に遠慮のない舌打ち。「柄悪い」と咎める男を殺意しか浮かばない瞳で睨んでやった。

「おはようシズちゃん。俺ごと布団を吹っ飛ばそうとするなんて攻撃的な寝相かつ斬新な目覚めだね。結論としてシズちゃんの寝起きはとても人類のそれとは思えない、と」
「いーざーやーくーん、君の目にはこれが何時に見えてるのかなー」

 怒りに震える静雄がずいっと出したのはアナログな目覚まし時計。ミシミシと小さく軋む時計は、短針が2と3の間を、長針が8と9の間をそれぞれ指していた。
 臨也は差し出された目覚まし時計を一瞥することなく胸元から携帯電話を取り出す。

「午前二時四十ニ分」

 さらっと答えた臨也は流れるような動作で携帯電話を胸ポケットに仕舞う。
 強度の限界を迎えたのか、静雄の手中で目覚まし時計が握り潰された。

「情報屋とかいうニート一歩手前の自由業のテメェは知らねえだろうが、俺は朝から仕事なんだよ!」

 潰れた目覚まし時計を握り締めたまま、静雄は臨也に一発入れようとした。
 それを臨也はひょいと上半身をのけ反らせることで回避。座っている臨也の脚の上に目覚まし時計の部品がぱらぱらと落ちるだけに終わった。

「それよりさ」
「無視すんなコラ」

 もういっそ節分の要領で時計ごとこいつにぶつけてやろうか。ノミ蟲は外、安眠は内――語呂は悪いが、こいつの顔面にネジやらナットやら食い込んだら多少は気分が晴れそうだ――静雄は行動に移すべく右腕を思いきり振りかぶった。
 しかし臨也はそんな静雄の様子を気にする事なく、自分の欲望に忠実に行動開始。座ったままの姿勢で上半身を捩り後ろを振り向くと、置いていた荷物を静雄の寝床までずるずると引っ張ってきた。
 臨也が後ろを向いている限り、静雄は哀れな目覚まし時計を投げ付けて節分ごっこをすることも出来ない。
 もしかしてこいつは俺の思考を読んだのかという不安と、とりあえずいいから早くこっち向けというじれったさが静雄の身を燻らせていく。
 投球フォームを構えたまま、静雄は臨也がこちらに振り向くのを辛抱強く待った。
 臨也は荷物を引き寄せ、「よっ、と」と膝の上に荷物を抱えた。溜めた力で渾身の投球を行おうとした静雄の願いは結局叶う事なく、目覚まし時計と共に木っ端微塵に砕け散った。

「さあ、レッツもふもふ!」

 ぐいっと臨也が静雄の胸元に押し付けたもの。それは眩しいほど真っさらなタオルやシーツだった。
 ぽかんと口を開ける静雄を尻目に、臨也は静雄に押し付け切れなかったタオルやシーツをどんどん広げていく。静雄の思考がようやく軌道に乗り掛けた時には、周りは既に白い海となっていた。

「…………お前、何しに来たんだ」

 たっぷり間を置いてどうにか発した一言。それすら臨也は予測済みだったようで、にっこりと静雄の求める答えより斜め上のものを口にした。

「さっきも言ったじゃないか。アリストテレス的な世界の体験――暗い洞穴から出て、真実を探しに行くのさ」



 シズちゃんって本当気が利かないよね、と臨也はあっという間に押し付けたタオルやシーツを静雄から奪っていった。
 文句の一つでも言ってやろうと静雄は口を開くのだが、臨也が鼻歌混じりにシーツやタオルを広げていくものだからどう切り出していいのか分からない。
 しかもその鼻歌のメロディが思い出せそうで思い出せないから余計に腹立つ。確かに聞き覚えのある曲なのだが。
 鼻歌は小さいながらもはっきりとした歌詞に切り替わる。

「たまっしいのソフ〇ーン♪」

 何かが違うと思ったが努めて無視。
 それまで静雄のことなど眼中にないような様子だった臨也が、そこでちらりとこちらを見た。

「ああ、実際俺のところ柔軟剤はソ〇ランじゃなくてハミ〇グなんだけどさ」
「言いたいのはそれだけか。ついでに俺はダ〇ニー派だ死ね臨也」
「えー。文句なら波江に言ってよ」

 秘書が洗濯したシーツやらタオルやら持参して、この男は本当に何しに来たんだ。
 アリス……なんちゃら的な体験と言っていたが、全く意味が分からない。臨也の考えていることなどこれっぽっちも理解したくないのだが、当人が答えるつもりがないとなると静雄が自力で答えを導かねばならない。
 人の寝床を荒らすというか覆い隠すというか、臨也が持参したシーツやタオルで静雄の布団は既に埋もれてしまっている。
 シーツの海、という言い回しが妙にしっくりきた。すんと息を吸い込めば洗い立ての洗濯物特有の、柔らかくてさっぱりした匂いが鼻を擽る。
 そういえばしばらく洗濯物を外で干していないような気がする。いつも部屋干しだ。どうせならばたっぷり午後の陽光を含んだ洗濯物に飛び込みたい。今度の休み、天気がよければ外に出そうか――そんな取り留めのないことで思考を停止させていると、臨也の方は準備が完了したらしい。
 持ち込んだタオルやシーツは全て静雄の布団の周りに敷き詰められており、ところどころ重なって潜り込める程度の山になっていた。

「……ああ」

 臨也が何故こんなことをしたのかは分からないが、先程言っていた「もふもふ」の意味は何となく察した。ようはここに飛び込め、ということだろう。

「人は母親の腹の中で進化の歴史を辿るんだ。海ではなく羊水の中をコロイドになって漂い、分裂を繰り返して羊水を泳ぐ魚に、身を丸めて孵化を待つ両生類に、地を駆ける獣に――十ヶ月で何億年も掛かった進化の歴史を追い掛けていく。そして人間として生み出される時には、それ全部忘れて生まれてくるんだよ、面白いよね」

 くっ、と臨也は喉の奥で笑う。

「傲慢じゃないか、自分は初めから人間だったと思い込んで生まれてくる」