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drrrイザシズログまとめ

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 静雄には臨也の言わんとしていることがさっぱり分からない。理解したくない気持ちの方が大分を占めていた。

「だから還るんだよ」

 母親の腹の中に還れ、とでも言うのか。
 訳が分からないが、臨也の言うことはとにかく何でも気に食わない。そんな気持ちだけで静雄は臨也を睨み付けた。
 臨也は山ともいえないタオルの重なりに左手を突っ込んだ。右手は静雄へと伸ばされ、左手に触れる。

「もしかしたら生まれてくるずっとずっと前、羊水じゃなくて海水の中を漂っている時には俺とシズちゃんの元は隣同士身を寄せ合って震えていたかもしれない。一緒に海を泳いで、陸に上がったかもしれない」

 もしかしたら、と艶かしく臨也の紅い唇が動く。

「人間になりそこなったシズちゃんは愛せないけど、もう一度進化を遡れば――俺は人間になる以前の君を愛せるかもしれない」

 だからほら、還ろうよ。
 臨也は静雄の手を引くことはせず、自分の体を静雄に押し付けた。呆然とする静雄はその重みを受け止めることも忘れて柔らかな海に埋もれてしまう。

「アリストテレスも言ったんだ。人は真実を生まれるその瞬間に忘れてしまうと。何かのきっかけを見て真実を回想することで、人は人になる」

 静雄を押し倒したまま、臨也は周囲のタオルをかき集める。それをどんどん二人の周りに積み上げ、少し息苦しいとすら感じる篭城が出来上がってしまった。
 静雄は上に乗る臨也を振り落とそうとするが身体は柔らかくタオルに埋もれ、掌はさらさらとしたシーツの心地良さを感じ取ってしまう。もう少しだけこの海に溺れていたい。そう思い、静雄の力が僅かに抜けた時だった。

「この微睡みで人になれるように色々思い出せるといいね、シズちゃん」

 注ぎ込まれた言葉に「クソッタレ」と吐き出してみても、恐怖に近い温かさによって溶けて消えてしまった。
 それがもう一度生まれるには、今はこの追体験を追い掛けるしかないらしい。


100216