鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心)
羨望(山下→森次)
※佐藤クンというオリジナルキャラが出てきます。
自分が周囲からどう見られているか、山下が一番分かっていた。
とある友人からたった一通の簡潔なメールが届いただけで、用件が分かる程度には。
『放課後、お前に伝えたいことがある。中庭の池の近くで待っていてくれ』
パタンと携帯を閉じるのと、ふうと息を吐き出すのは、同時だった。
今は昼休み。放課後までの2時間が、堪らなく憂鬱だった。
「お前が好きだ」
気が置けない友人が、頬を赤らめながら言った。
精悍な顔つきの中に僅かな幼さが残っている彼は、山下が高校入学当時から交流のある相手だ。休みの日になれば一緒に遊びに出掛けたし、互いの家でテレビゲームで一日潰したこともあった。
それまで、だ。殊更、特別な間柄だった訳ではない。一般的な交友だろう。
山下は、自分が周りからどう見られているか、よく知っていた。
だから、一般的で健全な彼が自分に不埒な思いを抱いていても不思議だと感じなかった。嫌悪もなかった。
「ごめん、キミの気持ちには応えられない」
何度口にしたか分からない言葉を、また口にした。
目の前の友人だった少年は少し傷付いた顔をして、そっか、と言った。
向こうも拒んだ理由は問わない。理由も何も、同性に惹かれることの異質さをよく分かっているからだ。自分の異質さを、改めて相手に言ってもらいたいと思う被虐主義者など、そう滅多にいないだろう。
山下はいつも思う。振られる方はまだいいのだ。自分の想いを勝手に告げて、それで終わりなのだから。向こうは気持ちの整理がつくのだろうが、振る側としてはこの上なく後味が悪い。砂を食んでいるようだ。
何度も口にした常套文句も、何度も噛み締めた砂も、山下の心を荒ませる。惨めと言い換えてもよかった。
「……都合がいい、って思われそうなんだけど」
相手の少年が気まずそうに口を開いた。
「よかったら、友達のままでいてくれないか?」
こんな気まずさの中、よくそんなことが言えるなと思う。
別に山下は、このまま彼と友人として馴れ合うことに異議はない。恐らく、今まで通りの交友が続くのだろう。
ただ、彼は堪えられないと思う。いつもそうだ。山下に告白してきた相手は、「せめて友達のままでいてくれ」と言う。山下もそれを承諾する。しかし、気まずさに堪えられず、離れていくのは常に相手の方からなのだ。
「うん、佐藤くんさえよければ。ボクはずっと友達でいたいよ」
にっこり笑って、常套文句。
相手もぱっと明るい笑顔になった。
「…………ボクはキミたちが羨ましいよ」
「え?」
「なんでもない。それよりほら、佐藤くんがボクに振られた記念ってことで巨大パフェでも食べに行こうよ!」
「なんだよそれ、ひっでー」
「もちろん佐藤くんのオゴリでさ!」
「ちょっ、な……! 待て山下!!」
今はまだ笑える。相手も、自分も。
自分の調子に合わせた彼は、やはり出来た人間だと思う。嫌悪はない。
ただ、やはり、羨ましくて仕方なかった。
山下が想いを寄せる人物は同性で、尚且つ他人との間に壁がある。
山下は一方的に想いを告げられる苦しさを十分知っている。
だから彼の人に、こんな砂を飲み込んだような気味の悪い思いはさせたくなかった。
(告白できる人が、羨ましい)
(ボクにはその愚かさすら、ないんだから)
081109
作品名:鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心) 作家名:てい