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彼方セブンチェンジログまとめ(腐向け)

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今夜あなたとキスをするでしょう


 煌々と照らすスポットライトの下、蒼希彼方の内心を一言で表すならば「あーあ」だった。
 今日の収録は生放送。2時間の特番ということで、セットもなかなかに凝っている。
 中央の巨大スクリーン、その前に司会者とアシスタントの局のアナウンサー。
 スクリーンの向かって右側には、学者やら大衆向けとは言い難い雑誌の編集長やら海外では有名らしい超能力者やら。
 反対側にはゲストのタレント。彼方は雛段の1番上、スクリーンに1番近いところに座っていた。
 1番近いせいで、スクリーンに何か映し出される度に目がチカチカして仕方ない。目を擦ったり瞬きの回数を増やしたりしたいのは山々だが、そんなことをしているところをカメラに写されるのはちょっと困る。
 あーあ、と何度目かの内心の嘆息。
 スクリーンが切り替わる。大きく表示されたのは、黒地に赤のおどろおどろしい文字列だった。

“滅亡のきっかけは太陽の黒点!?”

 太陽にほくろでも出来るのかな、と軽い現実逃避。司会者が研究者の一人に詳しい説明を求める。どうやら今のパネルはその研究者の担当らしい。
 聞いたこともない研究所の聞いたこともない分野の研究者が、妙に熱っぽい口調で口を切った。
 収録が始まってから、何人かの専門家らしい人物達が自分の担当になると熱弁を振るっていた。恐らくこの学者も御多分に洩れず、熱弁が過ぎて唾が飛ぶんだろうなと思った。

 2012年12月21日。
 中央アメリカを中心に栄えた高度な文明を持つ古代人によると、その日に人類は滅亡するらしい。
 彼方はこの収録が始まるまでそんなこと自体知らなかったので、1番最初に表示されていた「人類滅亡のカウントダウン・そのとき、あなたは」というタイトルにもどう反応して良いのか分からなかった。
 知らないからには番組内の解説をしっかり聞いて、話を振られても困らないようにしておかなければならない。マネージャーの田中にも収録前に同じようなことを言われたし、自発的に彼方もそう思っていた。
 しっかり説明を聞いた上でボケる。そして会場のお客さんもテレビの前の視聴者も大爆笑。うん、完璧。
 だいたいこんな年の瀬に、みんなの不安を煽るような番組を組んでどうするのだろう。不景気だとか社会不安だとか、色々と薄暗いニュースばかりなのだから、ゴールデンタイムくらいバカらしくなるほどのバラエティー特番で良いではないか。
 何年後かの不安を煽って滅亡のカウントダウンを兼ねた年越しより、笑って新年を迎えた方が絶対良いに決まっているのに。
 番組の最後に「鬱屈をした気分を吹っ飛ばせ! ファイヤーカウントダウン!」みたいな火の輪潜りとか熱湯風呂とかやらないかなぁ――彼方は急にそわそわして、カメラがこちらを捉えていないことをいいことにスタジオの中を視線だけで見渡した。
 勿論そんなものがある訳がなく。というかスタジオに入った時点でそんなステキなセットがあったならば、彼方の芸人センサーが反応するはずだ。ないことは初めから分かっているのに、自分の感性とは合わない番組に出演している内に本格的に現実逃避したくなったらしい。
 危うく溜息を吐きそうになったとき、右頬辺りに厳しい視線。彼方がちょっとピンクの瞳を動かすと、その先には田中が厳しい面持ちで腕を組んで立っていた。

(あ、今の見られたのかも)

 だから頬に無言の圧力を感じたのだ。
 こちらが気付くと同時に、田中も彼方が自分の様子に気付いたらしい。ちゃんとやれ、と小さく田中が唇を動かした。
 はーい、と笑顔付きで返事したいのをぐっと我慢。カメラは彼方を映していた。真面目な検証番組で無意味にへらへらするのは良くない。だから彼方はちょっと驚いた顔をしながら、今の研究者の話に頷いて見せた。
 内心、ほら田中さん、オレだってちゃんと出来るんですよ、と思いながら。

「では××さん、有難うございました」

 司会者のその言葉でひと区切りついたことを悟る。語りたいことを満足に語ったせいか、研究者の表情は晴々としていた。
 そろそろ番組も終盤らしい。議論は出尽くしたのか、「どうすれば人類は滅びの道を歩まずに済むか」という話になっていた。
 下手に話すとボロが出る、という理由で自分から話に加わることを田中に止められている。彼方は大人しく頷いたり神妙な面持ちでいたりして、自分もとりあえず番組に参加しているんですよといったポーズ。
 出演者たちの飛び交う意見や、それに対する専門家たちの反論を司会者がまとめていく。
 ふう、と皆が一息吐くタイミングを見計らって、司会者が彼方に笑顔を向けた。

「蒼希くんは世界が終わる瞬間、何をしていたい?」
「え、」
「恋人といたいとか、家族といたいとか、好きなものを食べているときに死にたいとか、どう?」

 視界に捉えてはいなかったが、恐らく田中はいてもたってもいられない顔をしているのだろうな、と思った。
 せっかく話を振られたんだから、ボケたい。ものすごくボケたい。
 しかしこの番組は生放送だから、滑ったとしてもカットされずに全国のお茶の間に届けられる。むしろボケようと思っていることを田中に悟られた瞬間に、何らかの妨害が起こるに違いない。
 ひしひしと田中がいる側から無言の圧力を感じる。視線一つにここまで痛くて重い何かを乗せられる田中は、ただ者ではない思う。
 有り得ない程の喉の渇きを覚えながら彼方は口を開いた。

「僕は仕事しながら死にたいです」
「仕事?」

 司会者が彼方の答えにぼかんとなったと同時、彼方に向かっていた視線も少し弱まった。

「大切な人に僕のこと見てもらいたンです、最後まで」
「へえ、蒼希くんって仕事熱心なんだね。ようはファンの皆が蒼希くんの笑顔を見ながら死ねるように、ってことでしょ?」
「ええ、まあ」

 嘘、本音は違います。
 そんなことをいちいち訂正するのも面倒だし、何より好意的に受け取ってもらったものをわざわざ覆す必要もない。
 曖昧に笑った彼方の笑顔に、司会者もそれ以上詮索することはなかった。番組終了の時間が迫っているので、彼方一人にばかり構っている時間はないのだろう。先陣が彼方だったというだけで、司会者は同じような質問を残りの出演者に投げ掛けては無難な答えを返していく。

「そろそろ番組終了のお時間が迫って参りました――」




「お疲れ様」

 収録が終わって帰路に着くタクシーの中。平淡な声で隣に座った田中が言った。

「田中さんもお疲れ様です」
「全くだ。お前がいつ馬鹿なことやらかすかと緊張しっぱなしだったよ、俺は」
「でもオレ、今日は頑張りましたよ」
「ああ、よくやったな」

 普段が普段だけに、田中は滅多に彼方を褒めない。自分が褒められないような余計なことをやらかすので、自業自得ではあるのだが。
 ぱあっと彼方は表情を明るくし、田中の手をガシッと掴んだ。

「オレ、田中さんの熱視線バッチリ受け止めましたから!」
「誰の何が熱視線だ!」

「触るな気持ち悪い!」と呆気なく手を振り払われる。だからといって彼方もしつこく追い掛けるような真似はしない。余計な一言も言わずにあっさり引き下がった。