コードギアスログまとめ(スザク受け中心)
ここにはこないで(7→3前提ルルーシュとスザク)
「どうして」
黒く、しかしどこか気品漂う紫の光沢を纏った手袋がスザクの頬を撫でた。
うっとりとした表情の男に、スザクも同じような笑みを返す。能面のようだ。微塵も動くことのない互いの心、それでも表情だけは目まぐるしく変化した。
「あのときナイトオブスリーを討たなかった」
討てなくはなかっただろう、と疑問と共に指はスザクの首筋へ。
答えてほしい、ときっと相手は思っていない。睦事の声音で囁かれるこれは、ちょっとした言葉遊びなのだろう。
今日は珍しく気分がいい。愛しい姫君を殺した男でも、すべてを躊躇いなく奪っていった男でも、自己を中心として世界を回そうとする男でも、もはやスザクにはどうでもよかった。
己も男も、歯車だ。世界を動かす歯車にすらなれない人間がごまんといる中で、たまたま自分とこの男は大きすぎる歯車になってしまっただけなのだ。
ギシギシ軋んで、小さな歯車には目もくれず、世界を無駄に無意味に摩耗させているのだろう。
「聞きたい?」
「ああ」
軽い調子で聞き返せば、男の唇が額に降ってきた。するするとなぞるように触れる唇は、きっとこの先、誰にも触れないだろう。否、誰もこの男に触れさせはしないだろう。この男と自分の意志で肌の接触を持とうとするのは、スザクとあの魔女ぐらいのものだ。
「殺さなければ、いつか役に立つと思ったんだよ」
「ほう」
「彼は優秀だから」
「知っているさ」
だから、敵に回られると厄介この上ない。
どちらともなく言って、スザクとルルーシュは笑った。
「出来ることなら説得して、一緒に戦いたかったんだ。彼がいれば心強いし、僕の負担も減る」
はあ、と熱い吐息がスザクの唇から零れた。開けたシャツの胸元に、ルルーシュが舌を這わせていた。
「絶対、乗ってくれると思ったんだけどなぁ」
小さく喘いだスザクは、ルルーシュの頭を抱え込んだ。もっと、という意味を込めて、強く。
ルルーシュはスザクの胸の飾りに軽く噛み付いた。ピクンと跳ねた身体に気をよくして、そのまましつこいくらいにそこを嘗め続ける。片側だけの刺激に、スザクはもどかしさと中途半端な快楽に身を捩った。
「本当に?」
「え?」
胸元から顔を離し、ルルーシュは問うた。スザクの頬は上気し、目は潤んでいる。行為を再開しないまでも、理性が僅かに崩れ落ちた。
「そんな理由だけであいつを討たなかったのか?」
使えそうだったから、など、他人を駒のように扱う台詞がスザクから出てくるはずがない。ならば、これは本心ではないのだろう。
スザクは他人が傷付くよりは自分が傷付くべきだと思っている。更にいえば、他人の罪ごと背負い込むつもりでもある。自分だけが悪であればいい、まるでそんな態度だ。
仮に、もし仮に、ジノをこちら側に本気で引き込みたいと思っていたのなら――ギアスをかけることも出来たのだ。スザクが最も憎むこの力すら、“必要悪”とスザク自身が割り切っている。
「どうだろう、ね」
スザクは天井を見上げ、思案した。
ナイトオブワンが来たから、とか、理由は多々ある。あるが、それが決定打かといえば答えはノーだ。
スザクの答えを待っていられない、とでもいうように、ルルーシュは愛撫を再開した。手袋越しの体温ですら、スザクを溶かしていく。自分の融点は一体どれほど低いのだろう。溶け出す思考の塊が、溶けきる前に結論を出した。
(ああ、彼には“悪”とか“憎悪”なんて似合わないから)
だから本気でこちら側に飲み込まなかったのだろう。
こんな自分ですら、真っ当に日だまりの中を歩かせようとしてくれた人なのだ。それをこんな闇の中に飲み込もうなど、出来る訳がない。
ルルーシュは愛撫を施しながらも、スザクの反応を伺っている。
正直に答えてやるつもりはなかった。
日だまりが恋しく思う。
しかしそこは、己の影が最も濃くなる場でもあった。
影は闇の中でしか己の存在を曖昧に出来ない。
結局は、この男の隣が一番心地いいというのが、スザクには堪らなく不満で、愉快だった。
080928
作品名:コードギアスログまとめ(スザク受け中心) 作家名:てい