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その日は、

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その日は、穏やかな日だった。



この手に握る物が、『野球のバット』から『人を殺すための刃』に変わった日のことを思い出していた。
ツナは最後まで俺に『一緒に来てほしい。』なんて言わなかった。

今でもツナの口癖は、『山本はほんとなら今頃大リーグで活躍してるんだろうね…。』だ。
そんなこと気にしなくて良いのに、無表情な顔を僅かに伏せて、そう言う。

俺に言わせれば、この道を選んだことよりもツナから表情が消えたことの方が後悔してる。

そこまで考えて、思いを断ち切るように、ブンッと振り降ろした剣先に、ツナが微笑んでいた。


「山本、休憩しない?」

それは、俺が知ってるあの頃の笑顔だった。

「でさ、リボーンてば、酷いんだよ。あいつ昨日俺になんて言ったと思う?」
「なんて?」
「『相変わらずダメツナだな。』・・・ダメツナなんてしばらく言われて無かったのになぁ…。」
文句を言いつつも、ツナの視線は懐かしそうに遠くを見た。
俺も、まるで昔にタイムスリップしたようにニカッと笑う。

「俺さ、本当のこと言うと、山本にはイタリアに来てほしくなかった。」

話の前後に脈絡なく、突然そう言われた。
まるで、今しか言う時は無いと、焦っている様に。

俺の唖然とした顔を見て、ツナは困ったように笑う。

「山本は俺の友達第一号だったんだ。」
その言葉に俺はどう切り返したら良いのかわからなかった。
けれど、何かがおかしいことはわかる。
ツナの言葉に嘘は無い、としても、こんなことを照れずに言える性格では無かったはずだ。

晴れやかなツナの顔は何もかもふっ切ったように見える。
その穏やかな表情が、俺は何よりも怖かった。
俺はツナのこんな顔を前にも見た気がする。
そうだ、あの時のツナは俺達を救うために、生きるのを諦めた。
どうして、今、同じ表情をして此処に座っているんだ。


「ツナ、お前・・・。」
ツナは強張った俺の声に気がつく。
苦笑して、首を傾げて「アハハ、」とツナの乾いた笑い声が響く。
「あー…やっぱ山本にはわかっちゃうかぁ。」

「山本って実は一番鋭いよね。まぁお兄さんも勘が良いっていうか…鼻が利くけど。・・・鈍いのは極寺くんだね、俺のことを信用し過ぎてる。」

つらつらと守護者のことを冷静に述べるその姿はいつもの『ボス』だった。

「なぁ、」
俺はツナの言葉を遮った。
(俺には別れを言うだけかよ、頼ってはくれないのか、相談も無いのか、俺が、お前をどんなにっどんなに…。)

「ん?」
こっちを見たツナに俺はニッと笑う。

「・・・ツナは俺の親友第一号だぜ。」
思ったことなんて一言も言えない。

一瞬間が空いて、ボッと一気にツナの顔が赤くなる。

「え、ええ?」
うろたえるツナに俺はくっと噴き出す。

「だから俺はイタリアに来たこと後悔してねーぜ。」
手を頭の後ろで組んで、俺はいつも通り笑った。

「山本…。」
「ホラ、もうちょい時間はあるんだろ?話そうぜ。」
その瞬間の泣きそうに笑ったツナの顔は今でも忘れられない。

作品名:その日は、 作家名:阿古屋珠