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その日は、

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その日は、珍しく恭弥さんが時間通りに起きて来ない日でした。



もともと朝は弱い方でしたが、大抵同じ時間に不機嫌そうに朝食を召しあがられていた。
それなのに、その日はいつになってもお姿は見えず、俺は失礼を承知でお部屋にいらっしゃる恭弥さんに声をかけた。
「おはようございます、恭弥さん。お時間になりましたが…。」

「草壁、今日は気分が悪いから誰も通さないで。」

きっぱりとそう言われ、俺は驚いた。
『気分が悪い』などと言われたのは初めてだ。

「お薬を、」
「いらない。今日は誰にも会いたくないから。」

間髪いれずそう言われ、俺はおとなしく引き下がった。

今思えば恭弥さんはこの時すでに何かを知っていたのかもしれない。

綱吉さんのお姿が見えたのは、もう夕刻になってからだった。
そろそろ夕飯の準備でも、と、重い腰をあげた瞬間だ。

「こんにちは。」

俺は突然現れた綱吉さんと、あまりにも優しい顔をした綱吉さんの表情の二つに驚く。

「あ、…と、恭弥さんは、今日は、その…。」
「誰にも会いたくないって?」
「ええ。」
さすがだ、何もかもお見通しなのかこの人は。

「わかりました。とりあえず、部屋に向かってみます。」

階段の方へ向かう綱吉さんは一度こっちへ振り向いた。

「そだ、草壁さん。…雲雀さんのこと、よろしくお願いします。」

それは、恐ろしく綺麗な笑みだった。


二階の恭弥さんの部屋へ綱吉さんが向かった後、内容まではわからないものの、誰かが声が荒げているのがわかった。
それが恭弥さんの声だったのか、綱吉さんの声だったのかは定かではない。
その後、物が倒れるような壊されるような音の後、静かになった。

綱吉さんは降りて来ない。

夜はじょじょに更けていく。
暗くなる外を見て、帰りがあまり遅くなるといけないのでは、と、無駄に心配をした。
彼は我がボンゴレファミリーのボスだ。
心配なんてしてもなんの意味も無い。けれど、今日の綱吉さんはまるで昔の…。

「草壁さん。」

いつのまにか綱吉さんが降りてきていた。

「お邪魔しました。」

綱吉さんはすぐに背を向けて出て行ってしまったので、その表情はよくわからなかった。



ただ、夜の闇の中に消えていく綱吉さんに恐怖を感じたのは確かだった。

「ねぇ。」
思わず肩を揺らした。
恭弥さんが降りてきて、柱に気だるげに体を預けている。
今日初めて見る恭弥さんのお姿はいつもとお変わりなかった。

「はい。」

「今日、寝酒が欲しいんだけど。」

俺は声こそあげなかったものの、瞠目した。

この人が寝酒??
普段だってそんなお飲みにならないのに。

「無いの?」
「あ、いや…日本酒なら。」
「そう、じゃ、それで良いから。」

ふいっとまた階段を上がっていく。

彼ら二人がどんな話をしたかなんて、きっと俺は一生知ることは出来ない。

作品名:その日は、 作家名:阿古屋珠