その日は、
その日は、最悪な日だった。
どんなふうに生きていけば、今日というこの日を避けられたのか、考えても仕方が無いことだとはわかっている。
それでも願わずにはいられなかった。
こんな指令を下される日が一生来なければ良かったのに。
俺に下された命は、ボンゴレボスの暗殺。
命じた当人は、俺とツナの関係を良く知っている奴だった。
クライエントである以上、『よっぽどの理由』が無い限り拒否することは出来ない。
「断ることは出来ないはずだ。」
「・・・。」
無言でタバコに火をつける。
余裕な表情で笑って見せた。
内心『くそったれっ!』と罵りながら。
「出来るな?」
それは問いかけじゃない。
命令だ。
「了解。」
短く答えて、俺は目の前にいる人物の頭を愛銃でふっ飛ばした。
ビチャッとトマトが潰れてケチャップが顔どころか全身にふりかかる。
こいつを殺せば間違いなく俺は裏社会から追われる身になるだろう。
でも、ツナを殺すよかよっぽどマシだ。
だから、最期に会うために俺はボンゴレの屋敷へと戻った。
『お疲れ。』
冷めた声でそう言い、薄く笑う。
ベッドの中以外じゃ、甘えたがらない恋人に味気なさを感じ始めたのは最近だ。
昔は良かった、情けないツナの頼る相手は俺しかいなかったから。
「おっかえりー!」
だから、満面の笑みで迎えてくれたツナに僅かに瞠目する。
「うっわ、すごい血!大丈夫?怪我した??」
コロコロと表情を変えるこいつは誰だ?
ヒィッと怯えた表情で血の付く服を見るツナはまるで昔のようだ。
「ツナ。」
「ん?」
その柔らかい笑みは全てを語っていた。
「この俺がヘマするとでも思ったのか?」
とりあえず、愛しい恋人にニヤリと笑って見せた。
甘い愛撫で体中にキスを落とす。
ツナは鼻から抜ける甘い声を出しながら、紡いだ。
「ね、リボー…ン?」
「あ?」
「ちゃんと、俺も連れてってね?」
ツナの顔を見た。
「俺と一緒じゃ、間違いなく地獄行きだぜ?」
「ふふ、俺一人でもどうせ地獄行きだもん…誰かさんがマフィアのボスにするから。」
それもそうだろう。
「ちゃんと、与えられた任務をこなすのが最強のヒットマンの条件でしょ?」
「最期の最期までリボーンがプロだったってこと、俺に見せてよ。」
ああ、綺麗に微笑むツナは対照的に残酷なことを言う。
俺に殺せと言うのか、お前は。
「…明日の夜だ。・・・それまでに挨拶を済ませろ。」
「有り難いけど、良いの?最後の日に、リボーンと一緒に居なくて。」
「良いさ、これから嫌でもずっと一緒だ。」
「ん…嬉しい。」
小さな呟き、それが俺達のその晩の最後の会話だった。
次の日、俺はレオンと共に、庭を散歩する。
良い天気だ。
このまま穏やかな時間がずっと続けばいい。
これ以上無いほどたくさんの命を奪ってきた自分が、こんなに穏やかに死に行くことができるなんて、本当はふさわしくない。
目をつぶれば、己に怒り狂う極寺や、悲しげに笑う山本、無表情でたたずむ骸、茫然とする笹川兄、…そして、一生俺を憎み続けるであろう雲雀の姿が想像できる。
お前らの大空は、悪いが俺が貰う。
サヨナラだ。