弁当男子
ああ、だから今日は地味なのか、それはクラスメート達もそう思ったようだ。なによりも、母親の弁当も作っているという事実に、一部の女子達が騒いでいる。そんなことを青葉君は気にせずに、ひたすら僕に謝っている。
「ないよ。むしろ、凄く美味しいよ青葉君」
「よかった……」
揚げ物がなく、野菜、煮物が多いメニューは母親のために作られたモノらしい。確かに、女性向けだなと思う。
「煮物とか久しぶりだったし」
実家にいた頃は野菜の煮物とか嬉しくなかったけど、今は少し嬉しい。
「そうですよ。先輩は野菜が足りません。平気でしたら、次からは入れておきます」
それじゃあと、一礼して去っていく青葉君を僕達は見つめている。ドアの前でこちらに手を振っている笑顔は、宗教画の天使のように愛らしい。ドア枠が額縁みたいに見える。
去った少年の後にクラスメート達は、先程の話を反芻している。母親の弁当を作る高校生男子というのはインパクトが強い。
「黒沼君凄いですよね」
そう笑う園原さんに微笑み返しながら、僕はまた一口、口を付けた。今日はいつもより美味しく感じる。それは、僕のために作られたモノではなく、彼の母親のために作られたものなのもあるのかもしれない。
いつもは揚げ物や、彩りを重視しているお弁当だけど、今日のは地味な色合いに抑えられている。青葉君の弁当は見たことないけど、彼なりに食べる人のことを考えているのだなと思う。
連絡手段の一つだというのに、手を抜かない彼に感心しながら、僕はまた口をつけた。
翌日、またいつもの繰り返しだった。だけど、今日はいつにも増してクラス中がざわついている。
流石にこれは少しやりすぎなんじゃないかと思う。彼なりの昨日への詫びなのか、照れ隠しなのだろうか、まったくわからない。だが、クラスメート達は妙に喜んでいる。
余り一喜一憂見せないようにしているのだけど、僕は流石に頭を抱えたくなった。
蓋を開けてそこにあったのは、桃色でんぶのハート、ハート型の野菜達、そして海苔と薄い卵焼き作られた『先輩LOVE』という文字だ。『O』の中にまでハートが覗いている。目に鮮やかなピンクの乱舞だった。
流石の園原さんでさえも……
「今日は一段と、凄いですね……」
言い澱んでいる。確かに、これはちょっとやり過ぎ何じゃないかと、後で一言添えようと僕は思ったんだ。
ちょっとこれは、やりすぎたよ。青葉君。って…………