弁当男子
ブログ『弁当男子ー愛息弁当ー』
昼。同僚達の熱い視線を感じながら、お弁当の蓋を開けるのが私の楽しみなの。
このお弁当は毎朝息子が作っている、愛息弁当。
あの人と離婚してから、私が弟を、あの人が兄を引き取った。それから働くようになった私の代わりにあの子が家事をしてくれている。
私が言うのもおかしいけど、相当の腕前にまで成長したわ。初めの頃は、それこそ危なっかしかったのに、今では私よりも上手いかもしれない。
ただでさえ、女の子みたいに可愛い息子なのにって思うけど、そんなことは今時流行らないわよね。むしろ、流行の最先端なんじゃないかしら、可愛くて料理上手の男の子だもの。って、我が息子ながら良くできているわ。
その息子のお弁当を私は毎日写真に撮ってブログを作ってるの。息子には内緒よ。恥ずかしいもの。
それを知っている同僚達も、毎日楽しみにしているみたい。
さぁ、ご開帳よ。今日はどんなお弁当かしら…………
「なにこれ」
それは美しい弁当だった。息子の作った弁当はいつも美しかった。だが、それよりも三割り増しほど、この弁当は色鮮やかだった。なによりも、普段はごく普通の家庭的な弁当であるのに対し、目前のそれは人参などが星形にカットされていて明らかに見栄えも重視されていた。
一番特質すべき点は、開けた瞬間に真っ先に眼に入った。
「先輩LOVE」
ピンク色の田麩で作られたハート、海苔と玉子とで作られた文字。覗き込んでいた同僚達もゴクリと喉を動かした。
「大丈夫なのかしら」
このお弁当がここにあるということは、あの子はこれと私のを入れ違えたことになる。
もし、このことをあの子が『先輩』に聞いたら…………
息子『あの、先輩。その……返事は?』
先輩『美味しかったよー。なんの話?』
みたいなことになったら、返事が貰えなかったとあの子が傷付くはず。第一、間違えたことにあの子は気付かないかもしれない。
「これは乗せられないわね」
その呟きに同僚達も笑みを漏らしている。写真を撮るための携帯を操作して息子へとメールを送る。
あの子はどんな反応するのかしら……
それにしても、まだ入学して数ヶ月だというのに、もう息子には好きな女の子が出来たようだ。しかも、先輩とは、さらに、お弁当を渡しているなんて、今の子達はそんなものなのかしらと、いつもよりも気合いの入ったお弁当に口を付けた。
「あら、いつもより美味しい」
本当に腕を上げて、それが私、母へではなく好きな女性への思いなのかしらと思うと淋しく思うが、幼い、小さいと思っていた息子の成長を少し嬉しく感じながら箸を動かした。