【LD1】金曜の晩には薔薇を【ベルジャン】
「ジャン、悪かったから。俺の頭がおかしかった、頼むから無視するな」
「あんたの頭はおかしい、それは間違いない」
翌日、あんまり焦った様子でもないルキーノがやって来て執務室で10分ほど謝り通しだ。
本当に反省している気がしないから返答もしてやらなかったが、さすがに部下に対してメンツが立たないかもしれない。返事ぐらいは返してやるか。顔を上げてはやらないが。
「そうだ、俺が馬鹿だった。だからほら、行こうぜ」
「あんたの仕事っぷりはもう十分に拝見させてもらったよ。俺だって今週あんたにくっ付いてったせいで書類なんかが溜まってる」
「おいおい頼む、今日は爺様方と」
「あんただって幹部なんだから、俺がいなくても大丈夫だろ」
「お前が来るからって、楽しみにして今日は全員集合なんだぞ。助けてくれよ」
なんだよそれは。俺は爺様どもに与える餌かっつーの。
今の俺はドン・アレッサンドロが来て雷でも落とさないとこの執務室の机から動かねーぞ。
「そりゃ良かったな、俺がどんだけイイ子ちゃんにしてるか、よろしく言っといてくれ」
ルキーノを追い出して、いつもなら嫌がる書類仕事に手をつけて、ちょっとカヴァッリの爺様にだけは電話連絡して俺が行けないこととルキーノが俺で遊ぶから1つ辛口に頼むと伝えておいて。
何だかんだで言い訳をつけて頭を別の方向に押しやる。
金曜日の晩に赤い薔薇。
雨に打たれる、肩を落としたベルナルドの姿を思い出す。
先のGDとの戦争中に失ったもの。それはベルナルドにとって大事なものだったはずだ。
俺よりずっと付き合いが長くて、確かにあれは気は強かったがいい女だった。
「―――っ!考えるな、考えるな、俺!」
ルキーノの問題はどうやら片付きそうだが、こちらは相手が気づいてない分、いや、気づかれてないと思ってる分、重症だった。
もう埒があかねーし、今日までは俺がルキーノについてると思ってるだろうけど、明日からはまたベルナルドと会う機会が出てくる。
約1週間、2人きりで会ってないんだ。これはもしかすると俺の自信過剰かもしれないが9割方アイツは俺に会いにくる。ベルナルドのことだから今夜かも知れない。
今夜…、だと2晩続けてかよ、と思って吐き気がした。
ベルナルドの愛情は疑ってない。アイツを信じたい。でも女の後釜…。何か泣きそう。
いろいろ耐えられなくなって、俺が電話した先は、とりあえず事情も聞かずに俺に付き合ってくれるヤツのところだった。
「うっひょー、うまそー!」
部屋に運び込まれてきたのは色とりどりのジェラート!
執務室の下の下の階の客間の1個は今や俺のパラダイス。
「俺、1回でいいからあの店のジェラートを制覇してみたかったんだよね」
「こんなに食べて、大丈夫、ですか?」
「平気、平気。俺が全部食うんじゃないし。ジュリオも食うだろ?」
「あ、俺も…、いいんですか?」
「そーじゃなきゃ、お前を誘ったりしないって。な?俺とりあえずチョコレート」
ジュリオに頼んだのは、アイスを食う量を制限されたけど食いたいから助けてくれ、だ。
そしたらどこから調べて来たのか、俺の好きな店のジェラートをそれも全種類買って来た。
何も買って来なくても、一緒に食いに出たんだが。まぁゆっくりのんびり食っていけるしいっか。
ほとんどのアイスをジュリオと半分ずつ食いながら、それでもハイペースに消化されていって山みたいになってたジェラートは瞬く間に消えていった。
自分で半分食っときながら言うのも何だけど、どこに入ったの、アレ。ちょっと怖い。
「美味しかった、ですか?」
「ああ、ちょー満足!ありがとなジュリオ。俺もしかしたらすんごいアイスに飢えてたのかも」
アイスの制限、というのはまんざら嘘でもなくて、あったら食ってしまう俺を見たベルナルドとルキーノが1日1つと言って来たのだ。
「ルキーノは普段、もっと食えって言って来るくせに、ドルチェばっか食うと横にデカくなるぞとか言ってさ。ベルナルドもベルナルドで見てるだけで腹を壊しそうとか…」
とか、言いながらも問題の2人のことを話題に上げちゃってる俺、なんか墓穴じゃね?
後半を苦笑いでごまかした俺に、ジュリオはただ黙って頷いていた。コイツと2人ってあんまし他に話題が思いつかないんだけど、それでも楽だ。
温かいコーヒーで腹の中をぬるくしようとしていたら、部屋の外から部下が声をかけて来た。
タイミング的に、というか俺の直感的に、ベルナルドだ、と思った。
表情に出ただろうか。
ジュリオは俺が返答する前に、いつの間に、と感心するスピードでドアの前まで行くと、俺に一言「少し出てきます」と告げて出て行った。
この場合、俺はベルナルドと2人で対面してろ、ってコトかな?
あまりアイコンタクトやら表情で意思を読むことやらが出来ないジュリオの意見ってのはあまりよくわからない。
俺が仕方なく部下に声をかけようとしたところで、ジュリオが顔を覗かせた。
「ジャンさん、何でもありませんでした」
「へ?誰か来たんじゃねーの?」
「…来た、けど。会う必要の、ない、人でした」
何ソレ意味深な発言ね。
でも恐らく、ジュリオが何をしたかは明白で。
それがジュリオの俺に対する気遣いなんだってわかったからとりあえず、その言葉に甘えさせてもらっておいた。
作品名:【LD1】金曜の晩には薔薇を【ベルジャン】 作家名:cou@ついった