【LD1】金曜の晩には薔薇を【ベルジャン】
「…あー、わかんねー…」
頭がパンクしそうになったんでしばらく頭を使うという機能を仕事中以外は止めていたが、今回ばかりは掘り起こした。
そもそものことの起こりは、ルキーノだ。
アイツはもうどうでもいい。
そんで…、ベルナルド。
いつかちゃんと聞かなきゃいけないんだと思う。俺はそうしないとたぶん、マトモにベルナルドの顔を見ることが出来ないし、話も出来ない。
…じゃあ、俺はどんな答えを望んでるんだ?
遠大な夢のために子作りを再開してみた?
昔の女とヨリを戻した?やっぱり女の方が良いって思いなおした?
…俺と別れたくても、カポを振るなんてマネは出来ないからこっそり続けてる?
嫌な思考が巡って、吐き気がしてくる、最悪な気分だ。
俺は、…俺はどうしたい?
「俺は、…やっぱベルナルドが好きだよ」
ルキーノに無理やりキスされた時に思い出したのも、折角逃げてきてジュリオと遊んでる時に会話に上げちゃうのも、こうやってぐるぐる悩んじまうのも。
「…うわー、俺最低。気持ち悪いぐらい。何だこのジュニアハイスクール並の青臭い感じ」
俺のかかってるのは「恋の病」って難病だよ、と、以前にベルナルドが嘯いていた姿を思い出す。
あのとき俺はその発言に笑ったけど、今なら笑えない。俺もかなり重症だった。しかも気付くのがちょっと遅かった。
でもまだ、手遅れにはなっちゃいない。
恐らく誰かが俺の頭の悪さを呪って今の忙しさを作り上げているんだと思う。
そんなぐらい、雑多に忙しかった。1つのことで忙しいならここまで疲れないと思うんだが、何かこう、無駄にいろいろと細々とあったせいで余計に疲れた。
折角、ベルナルドと顔つきあわせて会話する気になったのに、結局流れ流れてそのままもう金曜日の夕方だ。
昨日は寝る時間短かったし、本当ならベッドに直帰して眠りこけたい。
それに今日は金曜…、ベルナルドのところに行っても、会えない可能性が高い、と思った。
それでも俺がここに来たのは、少しでも俺がベルナルドと会う気があると伝えたかったためだ。
俺がベルナルドが根城に使ってる屋敷に着くと、いつもの黒服の部下たちが目を見開いて駆け寄ってきた。
何だよ、ボスが自分で運転して来ちゃ駄目かよ。
…それとも、来ちゃいけなか…。
「ボス、よくぞ!」
「…へ?」
「コマンダンテの様子が変なんです。貴方に会えば治るかも知れません」
「そんな、人を特効薬みたいに」
「3日前の晩から、あんまり寝ていないようでして。それにどう見ても普段とは…」
よほどの危機的状況なんだろう。ここ数日忙しかったから、それも原因だろうな。
とにかく今夜はお出かけにはなってないらしい。
ベルナルドの部下に連れられて来た屋敷の中は、人が歩くところはそこかしこに電気が引かれ、まるで昼間みたいに明るく照らされている。
部下に慕われていて、心配されて、いい上司じゃねーか。これが所帯もって子供でも出来れば…、みんな大層喜ぶだろうよ。
何度も入ったことのある部屋にノックの音が響いた。
「誰だ」
…つい「あんたが誰よ」と言いたくなるぐらい低くて機嫌の悪そうな声。
「コマンダンテ、…ボス・ジャンカルロがおいでになられました」
こそばゆい呼び方から一拍置いて、室内から派手に大きな物音…椅子でも倒れたんだろうな。人が倒れたって雰囲気の音じゃない。
それからまた数拍おいて、長いと感じた頃に中から弱弱しく返答があった。
「入ってもらってくれ」
作品名:【LD1】金曜の晩には薔薇を【ベルジャン】 作家名:cou@ついった