【LD1】金曜の晩には薔薇を【ベルジャン】
「う…」
そんな顔されて、優しく名前を呼ばれて、あやすように髪を撫でられて。
んなことされて、喜ぶような女とは俺は違うんだよ、ちげーんだ、なのに何で。
何で俺、こんなにもコイツのこと好きなワケ?
涙ってヤツがボロボロ零れて止まんないワケ?
耐え切れなくなって、目の前のちょっとパサパサの髪に抱きついた。
「べ、ベルナ、ルド」
「ジャン。…何か俺は、天国かお前の幻影でも見てるのかな。お前の顔が俺のことを好きだと言ってるようにしか見えないんだが」
「眼科行け!」
緑色の髪を、抜けちまえばいいんだとばかりに握り締める。
俺、こんなんでコイツを手放せるワケがねぇ。ボス権限とやらを最大限に使ってでも、職権乱用してでも離したくない。
「いたたた、ジャン、ジャン。いい加減お前の考えてることを教えてくれ。どうやら俺が考えていた仮説とは違う事態が起きているらしいから」
「あんたの仮説って何だよ!」
「…その、何だ。えーと」
言えないようなこと考えてんじゃねーよ、と引き剥がす勢いで抱えていた頭を突き放す。が、腰まわりに案外力の強い腕が巻きついていて離れられない。
それが嬉しいような苦しいような。
ベルナルドは目を泳がせながら、それでも逃がさないとばかりに締め付けて俺を離さない。
「…ここのところずっと俺を突き放して、ジュリオとばかり居ただろう。アイツからは相当な牽制を受けていたし。…それに、あんなふうに抱きついたりして」
……?
ジュリオにはジェラートを理由にして、時間潰しに付き合って貰っていたが、抱きついた記憶はない。
話し始めたら止まらなくなったのか、自嘲気味な口調で叩きつけるように言葉が続く。
「仕事のせいでもうずっと会えなくて、お前が心配で、声が聞きたくて触れたくて乾ききってる時に、お前はジュリオを見て、触れていて、拒絶されて、仕事の話だけでそれも一瞬で、ジャン」
ベルナルドは大きく体と手を伸ばして、俺の頬を筋張った両手で包み、顔を寄せてくる。
久しぶりに間近で見た男の顔は、疲労とクマが張り付いてもう一生取れなさそうな色をしていた。でもそれ以上に、真実を語っていた。
「狂うかと思ったんだ。俺はこんなにもお前を愛しているのに、ジャン。お前の目は俺の方を見ることを止めたから」
「っ」
「殺しそうになったんだ。俺のこともお前のこともジュリオのことも」
ジュリオをあんたが殺るのは無理だろうなー、と思いながらもその顔に顔を寄せる。
「……勘違いって、怖いのねダーリン」
「茶化さないでくれジャン。俺は本気だったよ。お前の涙を見る直前までは」
「おう、…俺、愛されてたんだなー」
その目を見つめたまま掠れてきた声で呟いた。
涙はもう乾いてきていたし、嗚咽も収まっていたが、喉の奥はいがらっぽい。それを治したくて、唇を寄せた。
潤いが欲しい唇が触れたのは、乾いてガサついたヤニ臭い唇だった。
「…俺も、変わらず愛してるわダーリン。あんたに捨てられるなら自殺したくなるぐらいに」
作品名:【LD1】金曜の晩には薔薇を【ベルジャン】 作家名:cou@ついった