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星への飛翔

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 ここアザディスタン王国は宗教上の理由で飲酒を忌む風潮があるが、法で規定されているわけではないため、特に基地周辺には外国人向けの酒場が多い。数百年前ならいざ知らず、現王室がユニオンよりの姿勢を示していることもあって、クルアーンの定める戒律を厳格に遵守しなければならないという旧時代的な考えは鳴りをひそめているようだった。しかしそれはあくまでも表面上の話で、最近では超保守派が反動的なドグマを掲げて政府に対する非難の声を公然と上げている。保守派筆頭のマスード・ラフマディ師がその穏健的な態度で改革派と保守派の対立の激化を防いでいる瀬戸際の状態が、双方の動きを監視するユニオン軍には痛いほど伝わってきていた。もしもこれが内紛に発展したならば、ダリルやハワードの属するMS部隊も前線に送られる可能性は高かった。そうでなくとも世界の警察を自負するユニオン軍、しかもMSWADはその精鋭部隊なのだ。アザディスタンだけではなくユニオン本国を含めた全世界に彼らの戦場はあり、その幅は宇宙にまで広がる。戦闘機パイロットという過酷な職務に就き、死亡や負傷によって永遠に官を退いた上官や同僚は、経験の浅いダリルたちでさえ数多く見ている。中には親しい者もいたし、顔は知っていても名前を知らない者もまたその逆も多くいた。死は常にかたわらにある。少しでも油断すれば、深淵はぽっかりと口を開けて彼らを飲み込もうとその足もとに広がっていた。それだからこその、ハワードの言葉だったのだろう。
 だがダリルは自分の心の中にそれに強く反発する、嫌悪にも似た感情が存在していることに気づいていた。死を覚悟したやつは土壇場で諦める。おれたちは絶対にそれをしてはならないにもかかわらず、だ。
 ハワードはダリルの心中を読んだのか、いつもの生真面目な表情を浮かべて「そうじゃない、そうじゃないんだ」と言いながらダリルの方へ体を向けた。
「ダリル、おれは別に盲目的に死に向かおうと言うんじゃない。ただ、それを覚悟することで理性的な自暴自棄になれるんだ」
 相反する二つの言葉を並列して吐き出した友人の言葉の意味を測りかね、ダリルはただそれを吐き出したハワードの口をまじまじと見つめていた。
作品名:星への飛翔 作家名:アレクセイ