星への飛翔
ダリルは友人の目をあらためて見返し、そして深くうなずいた。そこにはハワードの愛の言葉とも遺言とも取れる告白に同意する気持ちと、それでもやはり譲れない一線はあるという拒絶をあらわしたものだった。ハワードもそんなダリルを糾弾するつもりなど初めからなく、むしろそれぞれの信念に基づいてフラッグを駆っていたのだということを好ましく思ったのか、その顔に笑みを浮かべた。
「ダリル、そろそろ出よう。次のビールはステイツで飲めばいい」
「ああ、明日にはこの国とお別れだな」
次に来るのはいつになるだろう、滅多なことを言うなおまえはそういうやつだから困る、などと軽口の応酬をしつつ席を立ち、彼らは冴え冴えとした砂漠の星空の下へと向かっていった。基地までの道のりの途中で、ダリルは不意に夜気に包まれているのではなく、暗い淵に沈んでいくような錯覚に襲われて足をゆるめた。前を行く戦友の背は折からの風に巻き上げられた砂にかすんで、まるで紗幕でもかぶったかのように揺らいで見える。ダリルは自分の頬にも細かな砂粒が当たるのを感じて思わず目を細めた。服のすき間からもそれは侵入し、肌の水気を吸い上げて全身をざらつかせていく。そのとき砂とともにある確信が、まるで天啓か何かのように体内へすべり込んだことに彼は気づいてしまった。それはもともと彼が知らず知らずのうちに胸中で育んでいた予感だったが、ハワードの告白によく似たそれを自分も抱えていたことをダリルは今初めて知ったのである。
(おれもあの人に翼を託してしまうんだろうか)
絶望と言うにはあまりに満ち足りていて、しかし希望とはけして呼べぬその予感に、ダリルは吹きすさぶ砂の中を歩く彼自身やハワードを見下ろしているあの北極星のように、残酷なまでに超然とした光明を見いだしたのだった。フラッグファイターのすべてが墜ちても、あの星だけは空高く輝きつづけているのだろう。「どうしたダリル、早くしろ」と呼びかける戦友の声はいやに遠く聞こえ、今にも砂嵐にかき消されてしまいそうなそれは、まるで性能の悪いスピーカーから届くかのようだとダリルは思った。そして早足でハワードのとなりに並ぶと、中尉どのはまだ起きているだろうかと何とはなしに話しかけた。
「この風さえなけりゃいい夜空だ、あの人が目を奪われないわけがない」