煉獄
ex. S.S.- 2
部活の無い火曜日、これから部活だという斉藤と別れた僕は、一緒に帰る人の宛も無いまま玄関に向かった。
たまにはひとりでゆっくり周りの景色を眺めながら帰ってみよう。そんな事を考えて歩いていると、校門前で何やら揉めている男女が目に入った。
よく見ると、女の子の方は同じ新聞部の倉田さんだ。男の方は門の陰になってよく見えないけれど、時折ちらちら見える顔の下半分はマスクに覆われていた。
──そういえば今朝のHRで、最近学校周辺で不審者が出没しているので気をつけるように、という話があった。クラスの女子の噂では、その不審者は夏だというのに黒いコートにサングラスをかけ、やはりマスクを装着しているらしい。
(倉田さんが危ない!)
僕は咄嗟に走り出した。
校門がだんだん近づいてくるにつれて、倉田さんの声が聞こえるようになる。
「変態!放して!!」
「待ってくれ、僕の話を……」
不審者が何やら反論しようとした時だった。
「イヤァァァァァ!」
駆け付けた僕の目の前で、倉田さんは甲高い悲鳴を上げながら男を投げ飛ばしたのだ。
「く、倉田さん!?」
「あら、坂上君……」
僕はびっくりしながらも倉田さんに駆け寄った。
「大丈夫?怪我はなかった?」
「え、ええ。すごく怖かったけど、咄嗟に撃退したから平気よ」
僕はこれまで、女の子は守ってあげなくちゃならない存在だと思っていた。でも、いざというときは女の子の方がたくましいのかもしれない。
「倉田さんって、強いんだね。すごいな」
「そんな、今回はたまたまよ、たまたま!」
倉田さんの新たな一面を知って、僕の心臓は煩いくらいにドキドキしている。
もしかして、これが……恋?
~おまけ~
「どうして僕ばかりがこんな目に……落とし物のハンカチを渡そうとしただけなのに……!」
アスファルトにしたたか身体を打ちつけられた綾小路は、倉田の匂いが染み付いたハンカチを握りしめ咽び泣いていた。