うしろの正面
大川に追いかけまわされてノイローゼになっている可哀相な奴だと、同情されているだけかもしれない。
坂上だって同じだ。綾小路の話に真剣に耳を傾け、励ましてくれる彼を疑いたくはないが、信じたいと思うほど猜疑心は膨らんでいく。
綾小路は、恐れた。
霊視の力を誇示することで、坂上に「頭のおかしい人だ」と思われたくなかった。
「じゃあ、帰りましょうか」
「ああ」
鞄を差しだしながら立ち上がる坂上に微笑み返し、綾小路は誓う。
──事情は話さない。だが、彼を死なせはしない。必ずこの手で、守ってみせる。