彗クロ 2
「いえ、おじさんが持ってて。信用料の代わりに」
「ええ? しっかしなー……」
「お願いします。……レグル」
人のよすぎる商談もどこか急き込んだ調子で話を切り上げたルークの硬い声も全部背中で聞き届けたレグルは、最後に名前を呼ばれてまんじりと首を背後に回した。ルークのテンポが掴めないイニシアチブを完全に持っていかれているわでいつもの調子が出ないだなんだと胸中に悪態つきまくっていたわけだが、実を言えば単純に拗ねてもいた。せっかくの馬車旅だ、昨夜早々にダウンしてしまったぶん、この三年来言葉を交わすことのできなかった友人と存分に友情を温めたかったのである。
しかし、現実はレグルが思っていたより、ほんのちょっと塩辛い。
姿勢悪く足を組んで肩に顎を乗せているレグルを見下ろす緑色は、感情を読み取られるのを拒んでいるかのように、再び茫洋たる紗の向こう側に隠されてしまっていた。
「そのリング、絶対なくすなよ」
「……は?」
(ルークって、こんなやつだったわけ?)
有無を言わせぬ命令形を言い放つ友人と、手元の古臭いリングとを見比べて、レグルはやるせなく眉尻を落とした。