die vier Jahreszeite 003
「大丈夫かー?フランシス」
ちっとも心配してない口調でアントーニョが云う。
元はといえばお前が寂しそうにあんなことを呟くからだろ,と文句を云いたかったが,腹が痛くて言葉にはならなかった。
そう云えば,朝から様子がおかしかったな,と未だズキズキと痛む腹を掌でそっと撫でながらアントーニョを見た。
こんな嵩張る玩具を持ち込むのもアレといえばアレだったし,へらへらしているのはいつもどおりだけどどこかひっかかる感じがあった。
とは云え本人が進んで口を開こうとしないのを「何があった?」と突っ込むのもルール違反だし,さて,どうしたものか。
そんな俺の視線をよそに,アントーニョは手を伸ばすとくしゃりくしゃりとギルベルトの頭を撫でている。
触んなよ!頭ぐしゃぐしゃになるだろ!と喚くギルベルトを見つめるアントーニョは笑っているが,やっぱりその目はどこか沈んでいるように見えた。
どうしたものかね。
漸くフツウに呼吸ができるまでに落ち着いた腹を撫でながら,俺は小さく息を吐いた。
この二人との出会いは今年の春。入学式。
学生番号が横並びという偶然から始まった関係だった。
元から徒党を組むような趣味はない。中学時代もそうだったし,高校に入学したのは「高校生」という肩書きを手にするためだけのようなところがあったから,別に親しい友人を作り学校生活をエンジョイしようなんてつもりもなかった。
それが,いったいどうしたことか。
気づけば隣にはギルベルトが居て,アントーニョが居る。そして馬鹿みたいな話をしては笑っている。
わざわざ口に出して言うことはなかったけれど,俺は結構この関係が気に入っていた。
だから理由もなくギルベルトが苛立ちを募らせていれば気になるし,いつもぽよよんとしているアントーニョが暗い眼をしていればやっぱり気になる。
二人とも俺と違ってまだまだ子どもくさい部分があるからな。
仕方がない。まったく。
予鈴が鳴るまであと五分。
次の授業は美術だったから必要な道具を纏めて美術室へ移動する。
トイレへ寄るというギルベルトの荷物を預かって,アントーニョと二人肩を並べて渡り廊下を歩いていた。
「何か,あったのか」
「んー?」
「お前,朝から様子が変だろ」
「そっかー?」
「無理して笑うな。見てるこっちが痛々しい」
作品名:die vier Jahreszeite 003 作家名:葎@ついったー