あなたへ
・・・それにしても思いも寄らぬトラップに引っ掛かってるな、2人とも。
その前に二心同体なんて感覚が全くわからない、というか想像がしようがないから、何とも言いようがないんだが。
確かに第三者から見ると、少なくとも物理的な距離は0に近いから判らなかったけれど、
「・・・でもきっと当たり前の事だったんだよ」
――――誰よりも、何よりも側にいるはずのこの2人の間でも、言葉にしないと伝わらない事はある。
けれどそれは誰だって一緒だ。
だってそれぞれの人にそれぞれの心があるのだから。
どれだけ距離が近くても、その間にどれだけ強い絆があったとしても。
個々である限り、すべてを完全に分かり合えるはずはない。それでも人は完全に一人きりでは生きていけないものだから、だからこそ人と人とは結びつこうとするんだろう。言葉を使って、気持ちを伝えて。
そうしてずっと昔から一つの世界を作ってきたから。
お互いの距離が少し近すぎたのかもしれない。
色んな事を共にくぐり抜けて、色んな事を分かち合って、言葉にしなくても気持ちが伝わる事を知っている2人だからこその、ちょっとした油断だ、今回は。
些細な受け取り方の違いが生んだ小さな溝くらい、2人が向き合えばきっとすぐに埋められる。
「…ん、でもこれで明日はきっと大丈夫よね」
杏子はパンと一つ手を叩くと、自分の机からメモを取り出した。
「それじゃ、遊園地の後のお楽しみメニュー決めないとね!」
遊戯は皆と遊べたらいい、何てカワイイこと言ってくれたけど、それだけじゃ面白くないもの。
主役の2人には心おきなく楽しんで貰わないと。
「さて、遊んだ後は取りあえず晩御飯よね。バースディケーキは夕方にお店に届くようにしてもらっておいてあるから」
「ゲームセンターは後回しにした方がいいかな? この間記録塗り替えるんだって2人して張り切ってたけど」
「ダメよ、一度やりだしたら誰も止められないわ」
胸を張ってきっぱりと言い切った杏子に、どっちかというと勿論やり込み派の御伽は苦笑を浮かべた。
「皆それぞれ得意分野で容赦ないからねぇ…」
「人の事言えるのかよ、お前」
「キミだってガンシューティングやり出したら止まらないじゃないか」
「はいはい、そこまで」
穏やかに獏良が割って入ったが、彼だってクイズの鬼の称号を頂戴している。
勿論主賓の遊戯にいたっては、2人それぞれがオールマイティに何でもこなし、何にでもかじり付く。
城之内はレース、杏子だってダンスゲームの華だ。つまりそれぞれがかなりな手練れなおかげで、放っておけばいつまでもご飯にすら辿り着けやしないかもしれない。
残念だがお楽しみは後回しに。
「飯食って、ゲーセン行って、最後はカラオケか。オールは結構久し振りだよな」
「疲れちゃったらボクの家に来ればいいよ。ぎゅうぎゅうになるけど寝る所くらいあるから」
「…さーて、どんな顔するかね。楽しみだな」
共犯者一同、顔を見合わせて、ニンマリと笑った。
いつも色々驚かされている分、今度は皆で2人にサプライズをプレゼントしたいのだ。
見るたびに色をかえ、表情をかえ、くるくる、変わる。
同じ模様の無い、万華鏡のように。
2人の「武藤遊戯」は、特にそんな存在だった。
何処にもない、この世界でたった一つの存在。
大事な、自分たちの仲間。
今度は、心だけじゃなく、言葉だけじゃなく、他の事でだって。
気持ちは伝わるのだと言う事を思い出してくれればいい。
「そいじゃ今日は解散!」
城之内の号令一下、明日の本番を控えて作戦本部は解散だ。
あとは、遊戯だけ。だけどそれだって本当は心配する事はないのだ。