叶えて
静雄はしばらく拳を握ったまま臨也を見ていたが。
「……チッ!!」
携帯を開き、岸谷新羅の電話番号を呼び出した。
「いやー。まさか君が臨也のことで電話するとは思わなかったよ。 まさに青天霹靂」
こくり、とセルティがうなずく。
「仲直りでもしたの?」
とセルティが携帯に打ち込む。
「うるせえ」
と静雄はぶっきらぼうに答えた。
「…ふーん。まぁ、なんでもいいけど。臨也の方は、心配ないよ。血もとまったし。ちょっと熱は出てるけどさ」
「熱?」
「傷口からばい菌が入ったみたいだね」
だからか、と静雄は一人で納得する。
でなければあの行動の説明のつけようがない。
新羅は血のついた手を拭きながら、慣れた手つきで医療道具を鞄にしまいこむ。
「ただ、数日は安静にしないとね」
言いながら、新羅はセルティと共に帰ろうとする。
「おいおいおいおい。なんでコイツ置いていくんだよ」
「入院するような怪我じゃないし、このままここで安静にさせといてよ」
「俺が安静に出来ないだろ」
「怪我人は労わろうよ」
「…チッ!!」
静雄は立ち上がった。
「静雄?」
「俺が出ていけばいいんだろ、その代わりお前ん家泊めろよ」
「それは別にかまわないけど…僕とセルティの愛の営みは邪魔しばばばば何セルティやめて!やめてよ痛いよ!」
セルティは新羅の腕を思い切り抓る。静雄はじゃれつく2人を横目で見ながら、荷物をまとめる。
ちらりと臨也を見れば、顔は相変わらず白い。
口に感触がよみがえる。
「クソッ…!」
静雄は唇を袖口で強く拭いた。
そんな静雄を、セルティと新羅は横目で見ていた。
「静雄なら、臨也の怪我は放置すると思っていたよ」
「静雄は優しいから」
「セルティは高校時代の2人知らないからねぇ…まぁ、いい傾向だと思うよ。かなり必死な声で電話かかってきたからなあ。何事かと思った」
「仲直り、したのだろうか?」
「それはないんじゃない? まあ臨也は好きな子ほどいじめちゃう傾向にあるヤツだけどさぁ…」
「…そうだな」
「もうちょっと素直になればいいのにさ、と思うよ。お互いにね。僕らももっと素直になって大人の時だだだだ! 痛いセルティ!!」
折原臨也が目覚めた時、部屋には誰もいなかった。
今までの経緯を思い出し、臨也は今の状況をほぼ理解した。
「…なんだかんだで、甘いもんねぇ、シズちゃんは」