2003年度龍騎短文まとめ
俺が嘘を言っても彼は咎めない。彼が嘘をついても俺は責めない。
それは信頼とかそんなものじゃなくて。
俺も彼も互いを好きで信頼していて口にする言葉の何が嘘で何が本当かなんてすぐに分かる、のだけど、
たまに俺は嘘を言うし彼は黙ってそれに騙される、俺は彼の優しい嘘に気づかないふりをする。
本当とは逆のことを言うことで本当を伝えることもできるようになった、俺たちの世界は嘘と本当が入れ子になっていて終わることがないかのようだ。
たまに、本当にたまに嘘をすべて消して彼に縋りたくなることがある、
(ねえ俺は死にたくないよ)
でも俺の嘘に慣れた彼は本当の後ろから本当を読み取ろうとしてしまう、それは彼が悪いんじゃないのに。
もし俺の言葉を本当だと悟っても、それに触れることに慣れていない彼はきっとまた優しく気づかないふりをして、そして俺は自分勝手に傷つく。君は悪くないけど俺も悪くないよ、きっと
「ねえゴロちゃん」
「はい?」
俺も君も向き合ってはどんなに小さな真実も言えない臆病者だね。
■2003/11/09 (日) 手塚
「手塚、機嫌悪い?」
「いや、そんなことはない」
「手塚、体調が悪いんじゃないのか」
「いや、そんなはずはない」
「手塚くん、さっきから落ち着かないね」
「いや、そんなことは・・・・」
「ねーえ、手塚くん」
「はい?」
「アンタ悪いこと言わないからさあ、これ持って帰んなさいな」
「・・・・・」
「このクッキー、好きだったでしょ」
「いえ、俺は甘いものはあんまり・・・・」
「アンタじゃないわよ、もう一人の方」
「・・・・・・!」
■2003/10/29 (水) 芝須
俺とあなたはお互いにだけ弱い汚いところを見せられる、でもそれは間違っても愛なんて綺麗で生臭いものじゃないね。
■2003/10/29 (水)
神様 まだ終わってないという嘘は本当ですか
■2003/10/14 (火) 公園・夕暮れ(芝&手)
「ねえみゆきちゃん」
「何だ?」
「俺たち昔から知り合いだったら結構うまくやっていけたかもね」
「そうだな」
「性格とか全然反対だからさあ、かえって馬が合ってさ」
「だといいな」
「うん、まあ俺が一般家庭に生まれてたらの話だけどね」
「俺が社長令息という可能性もあるぞ」
「あはは、ねえみゆきちゃん」
「何だ?」
「これから先の運命は変えられても過去は変えられないよね」
「・・・・ああ」
「それだけは救いだと思う?」
「・・・・・・」
「言い方変えようか。それだけが救いって思ってもいいと思う?」
■2003/10/13 (月) 花鶏にて
「あんたの心の広さにはもう愛想が尽きたよ!」
「・・・そういう理由で怒られるのは初めてだな」
「ということがあったんだがまあ芝浦も難しい年頃だしなあ」
「もうハタチ越してんだろ?」
「21だがまだ高校生のように可愛らしい」
「蓮ー アホが二人いるー」
「手遅れだ。放置しておけ」
■2003/10/13 (月) 手芝
全てを許せない子供のような目をしていた。
■2003/10/13 (月) 天国ライダ
「天国とはすなわち地獄である、なぜなら君がいないからである」
「何言ってるんですか? 芝浦君」
「ん? いや、俺の好きな人が早く死なないかなあと思って。」
■2003/10/07 (火) 芝浦
困るよ、君を好きというだけじゃ生きていけない
■2003/10/06 (月) 芝&手
「好き」
「うん」
「あんたは?」
「うん」
「・・・・・・あのさあ」
「・・・知ってるだろう」
「知らない」
「・・・・・・」
「言ってよ」
「・・・・・・」
「好きだよ」
「うん」
「あんたは?」
「・・・・・・」
「態度とまでは言わないよ、言葉でもいいから頂戴っていってんの」
「・・・分からないのか」
「分かんないね」
「信じてない、のか」
「信じてないよ」
「・・・・・」
「あんただってそうでしょ?」
「・・・・・」
「好きと信頼って全然別だってあんたのこと好きになって知った」
■2003/09/29 (月) 東條
目を閉じて何も考えずに呟く、多分君の名前だ。
■2003/09/28 (日)
唇を動かす、名前を読んだはずなのに振り向かない。
君が俺を嫌うことに俺が傷つく権利はあるか?
■2003/09/16 (火) 芝→手
彼を知る人で「おかしい」と言わない人は珍しい。「好きだ」と言わない人も。
■2003/09/14 (日) 芝浦
床にねそべる。
意味もなく笑う。
楽しいよ。
自分を汚すのは楽しいよ。
助けたいなら救いたいなら愛しているなら堕ちてこい。あんたがここまで。
愛しているならあんたが汚れて。
俺は今さら綺麗になれない。
■2003/09/14 (日) 芝手
季節外れの花火に君と二人夢中になった。
叱られてみたくてわざと危ないことをした。
線香花火も終えて律儀に燃えカスを拾い集める彼をぼんやりと眺める。
また来年、とは、なぜだか言ってはいけない気がした。
■2003/09/14 (日) 手塚
怒っているとき相手にすると怒る。相手にしないと怒る。
不機嫌な顔でもっと俺を好きになってと言われるけれど
「これ以上どうやって」
と聞いたらやっぱり怒るだろうか。
■2003/09/12 (金) 浅須
うちに転がり込んできた脱獄犯はなぜだか自分こそがこの家の主人なのだと言わんばかりに振舞っている。
あまりの倣岸さに呆れはて出て行けと言ったら馬鹿にするように私を見た。
「本当にいいのか」
まるで私が頼み込んで彼に居てもらっているような口調に眉をしかめる。
「そんなことが言えないように舌を縦に裂いてやりましょうか」
「お前の鋏でか?」
まるでそれが気の利いた台詞ででもあるかのように、不愉快に蛇は笑った。
■2003/09/12 (金) 芝
俺を大好きか大嫌いかじゃない限り近づかないでよ。
■2003/09/11 (木) 手塚
落ちていく夢を見た。
掴んでいたものから手をすべらせて、深い穴、のようなものの中にゆっくりと落ちていった。
落ちていく最中に、穴の内壁に掴まっているいろいろな人や物が見えて、けれど何を言おうか考えているうちに遠ざかっていってしまった。
城戸は俺を見たとたんにひどく驚いた顔をして何とか捕まえようと手を伸ばす、けれどそれは少しだけ俺に届かなかった。
秋山も俺に気づいたけれど唇を噛んで睨みつけるだけだった、彼の腕には恋人らしき女性がいたのでもし俺を助けたくても不可能なのだ、そんなことを怒る気にはなれなかったから彼女を放すなと笑ってみせた。
浅倉は俺に気づいているのかいないのか、こちらを見もせずに片手を放して遊んでいた、もし落ちてもそれすらも楽しめるのだろうと思うと少し羨ましい気もする。
俺とはあまり会話をしたこともなかった弁護士は秘書に背中を支えられて壁に掴まっていた(きちんと両手で掴まればいいのに片手は秘書の服を握り締めている)、
雄一はどこにいるのだろうということ、この穴はどこに続いているのだろうということを同時に考えた。
たとえ底に叩きつけられて死ぬとしても怖くはなかった。
作品名:2003年度龍騎短文まとめ 作家名:もりなが