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ぐるぐる

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「・・・・ぅあ、あああの、か、狩沢さん・・?」

僕の体が無意識に後ずさろうとしたけれど、掴まれた腕はぴくりともしない。

「・・・・・・シズシズと?」
「・・・はい」
「・・・・・・付き合ってる?」
「・・・はい」
「・・・・・・みかぷーが?」
「・・・はい。その、分不相応だとは思いますが・・・」

そこまで答えた瞬間、狩沢さんの両目から膨大な涙があふれ出した。(えぇぇぇっ!?)
神よ・・!と呟く声が小さく聞こえる。
一体何に涙して一体何に感謝しているのか、一体なぜ?
出会ったことのない状況に、僕の心の片隅で(非日常!)と喜ぶ気持ちもあったけど、それと同じくらいここから逃げ出したい気持ちも存在した。
くぅっと目元を押さえると、狩沢さんがようやく顔を上げてくれた。

「・・・っよくやったわ、みかぷー!!こんな生・・っ、よし!よし!!」
「か、狩沢さん!僕にはよくわかりません!」
「しずみかしずみかしずみかオッケー!あり!ありよ!!」
「何の呪文ですかそれ!?」

一気にテンションが上がったのか、狩沢さんの絶叫にも近い叫びがあたりにこだまする。
ちらちらとこちらを見て去っていく通行人に、自分から狩沢さんに近づいておきながら「違います」とか「助けてください」と言いそうになった。
その後も狩沢さんは僕にはよくわからない呪文をぶつぶつ唱えていたけれど、これまたススス・・と遊馬崎さんが近寄ってきた。
ぽん、と狩沢さんの肩に手を置くと、「おめでとう」と言っているのが聞こえた。

(だから一体何が・・?)

僕がこの状況にそろそろ飽き始めたころ、ようやく狩沢さんが手を放してくれた。
少し痛むそこを撫でていると

「ごめんごめんみかぷー。ちょっとテンション上がりきっちゃった。ほら、こんな生BLそうそうないじゃない?」
「なま・・・?」
「あー、いやあんまり聞かないほうがためっすよ。んで、えーと何か質問あるんでしたっけ?」
「はい。えっとどのくらいで先に進むものなのかな、ってことなんです、け、ど・・・」

一度落ち着いたはずの狩沢さんの目がギランと光った。
ないはずのメガネをかけ直すような仕草をすると、軽く腕を組む。

「先にってどのくらいのレベルかな?とりあえず手はつないだ?デートした?キスは?たどり着きたいところはセクロスでいいのかな?あ、ちなみにセクロスの意味は具体的にいえば」

息継ぐ暇もない勢いで質問が始まった狩沢さんの口を、そこで遊馬崎さんが紳士的にふさいだ。

「あぁと、その、手はつなぎました。デート・・って呼べるほどのはない、です。マックとか食べに行きました」
「ゆまっち放して!で、キスは?」
「ま・・・まだ・・・・」

顔が赤くなるのが自分でわかる。
うぅ・・・と呻く僕の肩に手を置いて、うんうんと聖母もかくやというほどの笑みを浮かべた。

「任せなさいい、みかぷー。いいこと、まずシズシズは結構奥手で純情なのよ」
「え、そうなんっすか?一応喧嘩人形っすよ?」
「そうなの!おねーさんの目を見くびらないで頂戴!だからキス以上のことに進もうと思ったらみかぷー!あなたが頑張らなきゃいけないのよ!」

(なるほど・・・一理ある)

と僕も思う。
静雄さんは照れ屋で心配性な面もあって、手をつなぐときなんか大変だった。
まず手を伸ばしてくれるのはいいんだけど、静雄さんのあの特有の力のせいで握るのが怖いと言われてしまい、伸ばされたそれに僕が掴んで、そっと握り返す力を調整しながら「これ大丈夫か?痛くないか?痛いなら痛いって言えよ」と、ものすごく恐る恐る心配されつつ握り返された。
そして握れたら握れたで、その状態で外を歩くという行為が恥ずかしいことに気づいてしまい、慌てて手を放し、そしてまた調整しながら手をつなぎ・・と繰り返したのだ。
そんなところも嫌いじゃないけど、もう少し僕に触れることに慣れてくれればいいのに、と思ってしまう。

(べ、別に触ってほしい、とかじゃ、ないんだけど・・!)

僕だって恥ずかしくてたまらないけど、それよりも一緒に居たいとか、ちょっとぐらいくっつきたいな、とか、思わないでもないのだ。
せっかく付き合ってるんだから、そういうこともしたっていいじゃないか。
でもそれが静雄さんからできないっていうなら、僕から進めるのは、確かにありだ。

「で、でもなんて言うか、僕そんな年上の人と付き合ったことなんてないですし、タイミングがつかめないというか・・・」
「そうねぇ・・・じゃ、アピールしてみるのはどう?シズシズのことだから、ちょっと誘ってみればプッツンきて押し倒してくれるかもよ?そしたら後は任せたらいーんだし」
「アピールって・・どうすればいいんですか?そこが僕には難関なんですが・・・」
「まずキスはみかぷーから頑張るの!どっちかの家に行ったりするでしょう?そのときにね・・・」

ごにょごにょと頭を突き合わせて作戦会議を行う。
ふんふんと頷き合いながら、最終的に

「よっしこれでオッケーよ!頑張りましょうねみかぷー!」
「はい!僕、頑張ります!!」

力強く拳を振り上げる狩沢さんに勇気づけられ、静雄さんと一歩先に進むため、僕も強く宣言した。
ちなみに帰り際にこの様子を見ていた門田さんと目があったけれど、とても疲れきった力ない笑顔を向けられた。

作品名:ぐるぐる 作家名:ジグ