ぐるぐる
またしてもなんとなく気まずいまま食事を終え(肉は結局自分で食べた)この空気を一新しようと僕は少し大きめの声を出した。
「静雄さん、デザートにアイスとかどうでしょうか!?」
「おっ、おぉ、もらう」
助かった!という表情で静雄さんが笑った。
2人であははーと笑いながら、冷蔵庫からアイスの箱を取り出した。
これもまた狩沢さんのアドバイス通りに買って来たものだ。
「ソーダ味とミルク味がありますよ」
「あー、なんか懐かしいな棒アイスか・・・んじゃ俺ミルクで」
「僕もミルクにしよっと」
バリっと勢いよく包装を破ると、静雄さんは一口で3分の1ぐらいを一気に食べてしまう。
そのままガブッと全部口に含んでしまうと、あっさりアイスは棒だけになった。
「一気に食べると、キーンってしませんか?」
「かき氷はなるけどなぁ。あんまじっくり舐めたりするのって性にあわねぇんだよな」
「あははわかります。僕は結構キーンってきちゃうんで、舐めてじゃないと無理なんですけど」
そんなことを言いながら、僕は棒アイスを下から舐め上げる。
静雄さんのほうを上目遣い(に、なってるのかな?)に見ながら、狩沢さんの言ったことを必死に反芻する。
(出来る限り下から、見つめながら、できれば手がべたべたになるように、舌を出して)
言われた通りに舐めていると、舌の熱で溶けたアイスが意識しなくても手をべたべたにしていく。
それも舐めとってと言われたことを思い出しつつ、自分の指に舌を這わせる。
ちぅ、と指先に吸いついてから、またアイスの攻略にとりかかる。
(一通り舐めたら、次は口にくわえる。口じゃなくてアイスを動かして舐める。ここでは絶対に静雄さんのほうを見るように・・)
手を舐めた時に静雄さんから視線を外してしまっていたので、ここで絶対に見なければと視線を戻すと、静雄さんの表情がいつもと違っていた。
驚愕、と言えばいいのか・・・目と口をまん丸にして、硬直している。
その姿に僕もびっくりしてしまって、思わず「静雄さん?」とアイスを口から外して名前を呼んだ。
するとビシィッと背筋を伸ばして、「あ、あ、あ、」と声にならない声を漏らす。
顔色を赤を青を行ったり来たりさせて、目がうろうろと辺りを彷徨う。
見たことのないその状態に、
(え、ど、どうしよう・・・具合悪くなったりした・・・?)
と慌てて僕は静雄さんに近づいて、顔を覗き込む。
その拍子にぽたりとアイスが一滴、静雄さんの手の甲に落ちた。
それを視線で追って(拭かなきゃ)と手を伸ばせば
「りゅっ、竜ヶ峰!!すまん!おおぉぉ、おれは、用事を思い出したから帰る!!!」
止める間もなく、靴も半分脱げたまま、ドアを吹き飛ばす勢いで出て行ってしまった。
またしても振動に揺れるアパートの中、僕は呆然と取り残された。
(師匠・・・これはどういう状況なんでしょうか・・・)
答えの出ない問いを心の中で投げかけて、僕は天をあおいだ。