ぐるぐる
それから数日間、僕は自分でもびっくりするほど頑張った。
時にはコケたふりして腕に抱きついてみたり、外で食事デートとかしてみたり、お揃いのストラップを買ったりなど、恋人らしい行為を僕なりに必死になってやってみたものの、静雄さんは一切僕にそういうことをしようとはしなかった。
(僕に魅力がないからかな・・・)
としばしば落ち込んだりしたものの、はっきり言って僕はこれ以上どうなりようもない。
服が悪いとかそういうことでもないだろうし、顔?髪型?体型?だとしても、すぐどうにかできるものじゃない。
もういっそ静雄さんに直接聞いた方が早いかもしれない――と本末転倒なことを考えて始めていた。
そんな僕らのことを当然リサーチしていたのだろう、臨也さんからチャットで話しかけられた。
内緒モード『やあ、最近頑張ってるらしいじゃない』
内緒モード【臨也さん・・・楽しんでますね】
内緒モード『まあねー。太郎さんったら必死なんだもん!』
内緒モード【バレバレですか?!】
内緒モード『俺にはね。シズちゃんは気付いてないと思うけどね。っていうかさ』
次の瞬間、僕は片手に飲もうとしていたペットボトルを落としてしまっていた。
内緒モード『シズちゃんには男色の気なんてないはずだけどね。君たち本当に付き合ってるの?』
(何言ってるんだろう臨也さん・・・)
僕はちゃんと静雄さんに告白して、オッケーをもらっているのだ。
手だって繋いでるしデートもしている。
キャップを開けていなかったので大惨事にならなくてすんだペットボトルを拾い上げて、キーボードをたたいた。
内緒モード【付き合ってますよ。邪魔したら怒りますよ】
(ちゃんと僕らは恋人同士だ。臨也さんまた何か変なこと企んでるんじゃないだろうな)
そう返した僕に対する返信が
内緒モード『ε=(・д・`*)ハァ…』
だったのが死ぬほどむかついた。
+
それからさらに数日後、僕はとんでもない状況に遭遇していた。
土曜日の午後――今日も静雄さんはお仕事だった。
昨日の夜に仕事だから会えない、とメールをもらっていた僕は、仕方なく街をぶらいついていた。
(また狩沢さんのところに相談に行こうかなぁ・・・でももうどうしようもない気が・・・)
どうせだからスーパーにでも寄って、静雄さんに食べてもらう料理を研究しようかと行き先を定めると、人ごみの中静雄さんの姿が見えた。
女の人と、腕を組んで。
(・・・・え?)
目を擦るけれど、その姿に変化はない。
じゃあ、あれは静雄さんによく似た人なんだろうと思って、そのバーテン姿を何度も確認するけれど、金髪でバーテン服を着て、サングラスをかけて片手に煙草持ってる、あんな綺麗な顔の人なんて、他にいるわけない。
僕から見えるのはその横顔だけど、僕があの人を見間違えるわけなんて、ない。それだけは絶対に自信を持って言える。
だとすれば――、だとしたら、あれはいったいなんだと言うのか。
女の人は静雄さんと同い年ぐらいだろうか、少なくとも僕の周りにいるようなタイプの人じゃない。
綺麗な腰近くまである長い髪が、彼女が話すたびに揺れた。
静雄さんの腕に当たっている胸はとても大きくて、赤いマニキュアに覆われた指先が静雄さんの綺麗で長い指に絡んでいた。
(なに・・・・あれ・・・・・)