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ぐるぐる

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楽しそうに話す女の人を振り払うでもなく、静雄さんは煙草を吸っている。
その姿はまるで恋人同士のようで――僕は慌てて辺りを見まわした。


(だって、静雄さんは仕事だって、言ってた。だから、近くにはトムさんがいるはずで、それで、だから)


でもどれだけ周りを見ても、あの特徴的なドレッドヘアは見つからない。
そんな馬鹿なことあるわけない。絶対に違う。そんわけない。
ぐっと詰まる息を無視して、必死に視線を彷徨わせる。
でも僕がトムさんを見つけられないまま、2人は歩き出してしまう。
トムさんが見当たらないことに、背筋にぞわっと悪寒が走った。
だって、静雄さんは1人で仕事をしない。1人で動いてしまうと何をしてしまうかわからないからだ。だから会社からも2人はセットで動くように言われてる、と静雄さん自身から僕は聞いたことがある。
ということは・・・


(今、静雄さんは、仕事じゃない?でも、仕事だって。でも、じゃあ、あれは何?)


数日前の臨也さんの言葉を思い出す。

『シズちゃんに男色の気は――』
『本当に付き合って――』


(僕は、なんて返した?)


付き合ってますよ、と言ったはずだ。だって付き合っているのだから、そう返すのは当たり前だ。
付き合っているのなら、当たり前だ。


(考えろ、考えろ、考えろ)


僕は付き合ってくださいって言って、それでわかったとあの人は言ってくれた。
それは恋人になる了承だったはずだ・・・はず、だ。
でも、と今更ながらに考える。


あの静雄さんが、男なんて好きになるだろうか?


あんなにカッコいい人だ。弟さんがあの羽島幽平という時点で、その端正な顔立ちがわかるというものだ。
背だって高くて、強くて、キレたら確かに怖いけれど、むやみな暴力は振るったりしない、心は優しい実は好青年だったりする。
そんなところが好きで、僕は大好きで、でも、静雄さんが男をわざわざ好きになることなんてない。
キレさえしなければ、いくらでも女の人が寄ってくるタイプだ。つまり、よりどりみどりなんだ。


(考えろ、考えろ、考えろ)


静雄さんが僕に触れなかったのは?
手をつなぐのに動揺していたのは?
抱きつくことだって、外に出かけたって、一緒に食事したって、静雄さんからのアクションなんてない。

そうだ、僕は静雄さんに――



(好き、と、言ってもらったことが、ない)



ときおりメールをくれる。会おうって言ってくれる。
それは、友達だから、遊びに行こうって言われてる、だけ?
付き合うって、そういう意味じゃなかった?

僕が思考の渦に沈んでいる間に、2人の姿はもうなかった。
だけど、2人が歩いて行った方にはホテル街があることぐらい知っている。
ふ、と肩から力が抜けた。


(なんだ・・・僕は、間違ってた。間違ってたんだ、全部)


静雄さんの恋人は、あの人だったんだ。
進展がないのなんて、当たり前だ。だって、そういう意味で付き合ってたんじゃ、なかったんだ。
ポツリと地面に水滴が落ちる。

「雨・・なんて、困る、なぁ・・・っ」

ぐっと唇をかみしめる。
自分の馬鹿さ加減に頭が痛かった。


(どうしよう、狩沢さんに付き合ってるなんて言っちゃった)


そういうのでは、なかったのに。
静雄さんにだって、今までくっついたり絡んだりして、迷惑をかけてしまった。
きっと困っただろう、僕は一応セルティさんとの知り合いでもあるのだから、静雄さんがセルティさんにも気をつかって僕を突き放さずにいてくれたんだろう。


(ちゃんと、謝らなくちゃ、離れなくちゃ・・・)


謝って理由を聞かれたら、「僕はあなたの恋人気どりでいました」と伝えなくちゃいけない。
そうして、そういう意味で静雄さんのことが好きなんだと言ってしまったら、今度こそ嫌われるんじゃないか?
嫌われる――そう考えただけで、水滴がさらにいくつも地面に落ちていく。

だって、同性に恋愛で好かれて喜ぶやつなんていない。


(とりあえず、メールをやめよう。電話もやめよう。静雄さんを見かけても、話しかけないようにしよう)


そうやって頑張って離れて、いつか思い出として伝えよう。
笑い飛ばしてくれるぐらいになったら。
僕が、この気持ちを完全に捨て切れたら。

あなたが本当に好きでした、と伝えよう。

作品名:ぐるぐる 作家名:ジグ