ぐるぐる
とりあえず、静雄さんの気持ちを知ってからすぐに誤解を解きに行かなかったのは僕の怠慢だ。
こんなに早くこの状況が来るとは思っていなかったから、僕はまだ静雄さんのことが好きなままだけど、それでも言うしかない。
笑い飛ばせる、とまではいけなくても、せめて気まずくならないように、ちゃんと笑って伝えなければ。
「ごめんなさい、静雄さん」
謝る僕に、静雄さんがハッとした顔でこちらを見た。
また言いにくそうに顔をしかめると、俺こそ、ともごもご呟く。
「悪かった。狩沢に会って、色々聞いちまった」
その言葉に、僕は思わずため息をついた。
もう完全に逃げ場はなかった。
「・・・・いえ、僕こそごめんなさい。すみません。迷惑を・・・」
「迷惑なんかじゃ・・た、ただ俺が触ったりなんかしたら、お前折れそうで」
僕は少し首を傾げた。
ぎゅっと握っている静雄さんの手、確かに殴られたりしたら一発で僕の骨は折れるだろうけれど・・・
(あぁ、僕がくっついてくるのを突き放せなかった理由、か)
手を握ったり、腕を組んだり、色々静雄さんにくっついたりしたから、静雄さんもすごく困ったんだろう。
それでも僕の身を案じて、振り払わずにいてくれていたんだ。
そう思うと、申し訳なさに身が縮こまるようだった。
「ほ、本当に、馴れ馴れしくして、すみませんでした。気持ち悪かった、でしょ?男にあんなくっつかれたりして、嫌じゃないわけないですもんね」
「い、嫌なわけないだろう!?でも俺はこんなだから」
ブンブンと首を横に振って否定してくれることに、僕は立場も忘れて喜んでしまいそうだった。
静雄さんはあの力のせいで、側にいてくれる友人が新羅さんとセルティさんぐらいだったそうだ(臨也さんは別枠として)
だからだろう、男にくっつかれるという異常事態でも、嫌じゃなかったと言ってくれる。
「静雄さんって心広いですね・・・ありがとうございます。否定しないでくれて。あ、狩沢さんには今度会ったら僕が誤解してたって伝えておきますから」
「誤解?」
こてんと首を傾げる姿が可愛らしく見える。
僕も出来る限り、精一杯の笑顔を作った。
「はい。すみませんでした。恋人気どりで、人に相談なんかして。狩沢さんには静雄さんは綺麗な彼女がいるって伝えておきますから」
「彼女?」
「ええ。恋人さんですよね?あ、まだ違うんですかね?だとしたらごめんなさい。えっと、とりあえず僕と静雄さんはただの友人で、間違ってもそんな関係じゃないって説明しますね」
「友人?」
「え、あ、ごめんなさい知り合いレベルですか?出来れば友達ぐらいではいたかったんですけど・・・」
「・・・・待て、何の話だ?」
え?と首を傾げる僕に、静雄さんが困惑の表情で告げる
「狩沢から聞いたのは、お、お前が、その、俺と、す、進んだ関係になりたいって・・」
そこで照れたのか、頬を少しだけ赤くして視線をそらす。
だけど僕は逆に血の気が引いていくのがわかった。
(よ、よりにもよってそこまで言ったのか狩沢さんは・・・!)
ぐらりと視界が揺れる。
よくこんなことを言われて静雄さんがキレなかったものだ。いや、むしろそこでキレたから、今は落ち着いているのかもしれない。
とにかく幸いなのは、静雄さんが僕を嫌悪しているようには見えないことだった。
ここで嫌そうに顔をしかめられたら、さすがに笑顔なんて保てない。
冷や汗が背筋に流れるのを意識しながらも、僕は誠心誠意、言葉を紡ぐ。
「は、はい・・・そう思ってたんですけどごめんなさい。僕、自分が静雄さんの恋人だって思いこんでて。大丈夫です、ちゃんと静雄さんには綺麗な彼女がいることわかりましたから。自分で誤解してるってことに気付きましたし、狩沢さんにも僕から伝えて」
必死にそう告げながら、だんだんと涙がにじんでくる。
こんな恥ずかしくてみっともないことがこれ以上あるだろうか。
好きな人に、好きになったことを謝らなければいけないことが、悲しくて仕方がなかった。
そんな必死な僕に向かって、静雄さんがぽつりと呟いた。
「お前、俺の恋人だろ・・・?」
「・・・え?」
「え?」