君への涙
──太陽暦475年。
黄昏色を映す鏡の前、ビッキーの元へとフッチは息を切らして駆け込んだ。
膝に手を置き俯くフッチの頬を伝うのは汗と──涙。
あとからあとから溢れ出すそれに目を見開いたまま、フッチは荒い息を吐いていた。
そんなフッチをやさしく見つめ、ビッキーは微笑んだ。そうしてふうわりと包むように抱きしめる。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。ルックくんはなんにも変わってなんかないよ。わたしたちが大好きなやさしいルックくんのまんまだよ」
「っうん、うん……!」
ビッキーは小さな身体で縋るように腕を回してくるフッチの震える肩を撫で、その柔らかな髪に顔を埋める。唄うように囁かれる言葉に、フッチの心は次第に落ち着きを取り戻していった。
「ありがとう、フッチくん。ルックくんのこ、っふえっ」
窓から吹き込んだ風がフッチの髪を浚い、ビッキーの鼻をくすぐる。
小さなくしゃみの音と共に、腕の中の少年は姿を消した。