君とさよなら
「にいちゃーん、まってよー」、と、家のドアに鍵をかける弟を、門前で待ちながらロマーノは今朝みた夢のことを考えていた。感情が、諦めを背中に押し付けてくるのだ。夢の中で、彼は彼に似つかわしい、美しい女性と歩いていた。夜を共にしていた。耳元でため息交じりのアイやらなんやらを囁いていた。夢の中の自分は、それをやめてくれとも言わずにただじっと見つめていた。泣きながら。声も上げずに。受け入れようと、していた。「おっせーよ馬鹿弟、はやくしろ、遅刻すんだろ」、と、やっとぱたぱたと足音をたてて走ってきた弟の横に並び、背を預けていた壁から体を離し、ロマーノは歩き出した。ヴェネチアーノは彼の後を「うん」、と、花でも飛ばしそうな笑顔でついていく。ロマーノは夢と現実とで、ぶれる視界を欠伸で滲んだ目で誤魔化した。あんな夢をみたというのに、受け入れることはできても諦めることがさらさら出来ない。好きなものの前で、手に入らないとわかってはいるのに、もしもを信じて物乞いをする子供のようだ、とロマーノは自分のことをとても冷静に、客観視できた。
だから、本当に、受け入れてはいるから、自分でも思っているほど、傷ついてはいないのだ。
夢かもしれなかった夢は確かに現実だった。ロマーノは学校の玄関で、靴を履き替えたところでふっとそのことに気がついた。