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2004年度龍騎短文まとめ

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皮肉のつもりだったが、強張った芝浦の顔に言い過ぎたと気づいた。
たぶん間違いなく、それは彼の一番触れてほしくないところだったのだろう。
「芝浦」
謝罪の言葉を口にするより早かった。
「・・・・・そうだよ」
芝浦は歯を食いしばって言った。
けれど顔を上げることまではできないようだった、ひどく傷つけられながら彼は、優しくさせてくれと呟いた。
「俺がしてほしかったことだよ。誰かに分かってほしかったよ。認められたかったよ。存在意義とか、価値とか、ここにいてもいいって言われたかったよ、許されたかったよ」
それは本当に血を吐くような、
誰にも彼にも、まるで自分は一人で生きてゆける人間だというふうに振舞ってきた彼の、それはおそらく誰にも打ち明けたことのない本音だ。
握り締めたこぶしが震えていた。
「いいでしょう? ここまで言ったんだからいいでしょう? 俺のとこに来てよ。いつまでもあんなやつらにしがみついてないで。あいつらにはあんたがいなくてもいいじゃない。あんたがついてなきゃどうにもならない人間じゃないじゃない。あんたがどんだけ自分を犠牲にしてるかとか全然気づいてない。自分だけが苦しいんだと思ってるあんなやつら、気にすることないよ。俺があんたに居場所をあげる。優しくしてあげる。愛してあげる。ずっと俺がしてほしかったみたいに、ずっと俺がしてほしかったことしてあげる、から・・・・・」
俯いた芝浦の頬を伝って涙が落ちた。 
優しくさせて。もういない俺に優しくさせて。あんたに優しくさせて。
彼はそう言って泣いた。

■2004/05/18 (火) 弱芝
「いつまでもそんなことをしていたらいつか誰もいなくなるぞ」
「あんたも?」
芝浦は目だけで俺を見上げて言った。
「あんたもいなくなる?」
「・・・・・・・」
「あんたも俺のこといらなくなる?見捨てる?一人にする?どっかに、帰んの?」
「・・・・・・・いや」
俺には帰る場所はない、と、なるべく静かに答えた。
「ここから出てったらあんたはどこにも行くとこないよね、でもどこにだって行くんでしょ?」
「・・・・・・」
「あんたもいなくなる?」
芝浦は頭を抱えてうつむいて言った。
「・・・・・・いや」
「じゃあいいよ。」
「?」
「あんたがいればもういいよ。ほかのものはいらないよ。いつも訓練してるんだ、いるものといらないものをいつも分けるようにしてる、いざってときに何も選べなくなりたくないんだ、あんただけいればいいよ。何もかも嫌いなときにだってあんただけは好きだよ。いなくならないでよ。いなくならないでよ。いなくならないでよ。俺、死んじゃうよ」
馬鹿みたいでしょうと平坦な声で呟かれ、そんなことは思わないと言って頭に手をのせた。
抱きしめてやりたいと思ったがなんだかそれは違う気がした、しかし俺が女だったらきっとためらいなく彼を抱いたろう。
彼には母親が必要だ。無条件に全てを許し受け入れることのできる人間が必要だ。

■2004/05/18 (火) 芝手「ガーベラ」
不意に甘えるような仕草をすることはあった。
ただそんなとき彼はきまってひどく不安定になっていたので、俺があまりうまく対処できたことはなかった。
命令することはできても、何かを頼むこと、してくれということには慣れていなかったように思える。
いつだってひどく傲慢で快活だったが、どこかわざとらしかった。
多分彼は彼のイメージする「芝浦淳」を演じていたのだと思う。万能で人をオモチャにするのが好きで好奇心が強く、どんな相手とでも対等に張り合う強気な、そんな「芝浦淳」を。
確かに彼自身そういう面もあるだろうが、付き合ってゆくうちに見えてきたのは、意外なほど全てに無関心な少年の顔だった。
自分も他人も世界もどうだっていい、どうなってもいいと言う横顔にはどこか諦観に似たものがある。子供らしい強がりだと流すには、芝浦の口調はあまりに疲れていた。

あまりにも一人でいたので、一人でないことが不自然になってしまった少年だった。気の毒がられることを何よりも嫌っていた。
何かを誰かを自分のものにすることにはそれなりに執着していたように見える、けれどそれにすら幾ばくかの諦めがあった。どうせ、とまず諦めてから全てにとりかかる。悲しい癖だと思ったが、それも生きてゆくためには必要だったのかもしれない。
よく未来の話の相手をさせられた、彼は自分が死ぬということはこれっぽっちも考えていないようだった。
そんなものだ、大概の人間は死の間際まで自分が死ぬなどと思わないのだろう。
男同士のセックスが異常であるとかそんなことはあまり思わなかった、子供がひどく欲しがっているのでとりあえず与えたという感じだ。
そもそも俺はあまり自分の体に関心がなかったような気もする。人を好きになるという感情がひどく曖昧にしか分からず、今まで女性に抱いた好意は雄一に抱いた好意と多分同じベクトルだった。好きではあるがそれだけで、大切でもあるがそれ以上に深く、体を求めるまでには発展しない。
芝浦と雄一を比べるならば、きっと雄一の方が重いだろう。けれど芝浦に性行為まで含めて欲しがられることに大した嫌悪は抱かなかった。
俺の中身はひどくうつろで、自分を大切だと思ったことは一度もない。雄一が家族よりも親身に俺に小言を言うのでかろうじて人並みの生活を送ってきたような気がする。
その点では芝浦の言う「俺がいないと何もできないんだから」は正解だった。どうでもいい自分のために何をしようとも思わない。
誰にも友情しか抱けないような、誰をも恋愛対象(というのか)としてしか見られないような、それは多分ひどく大きな違いだけれどもどう違うのかよく分からない。
雄一にも体を欲しがられたら与えたかと思い、それを想像するのにひどく手間取ったが別に拒否する理由もないのでそうしたかもしれない(?)。けれど頭で考えることがいつも実際実行できるかというとそうでもないのでこれは永遠に分からない。
芝浦の口にする言葉には、本当と嘘がよく混ざっていた。
そのどちらも俺にとってどうでもいいことが多かったので、いつも常識的にたしなめる以上のことはしなかったが、芝浦はそれを嫌がったのでそのうち放置するようになった。
痛いほどに腕をつかまれ、ベッドの中で大切だと繰り返されることもよくあったが、必ずその言葉に続けて「嘘だ」というので放っておいた。嘘だと思われた方が楽だからなのだろうかと思ったが、考察するのもじきやめた。
俺を大切ならば礼を言うべきだし、それが嘘ならば怒るべきか、それでもどうでもよかった。嘘だろうがそうでなかろうが芝浦への感情が変わるわけではない。
ベッドの中ではだいたい芝浦の好みにあわせて振舞った、別に喜ばせようとしていたわけではなく、その方がいろいろ楽なのでそうしていただけだ。
嘘の優しさと嘘のぬくもりと嘘の本気で作った巣の中に芝浦はいた。本当のものは芝浦の小さな世界を脅かすので嘘だというクッションをおいて全てを欲しがっているのだろう。