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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 双子は離れの方へと歩いて行く。いつの間にか漬物は八左ヱ門の手の中に押し付けられていた。
「おーい、漬物たくさんもらったから、今日は飯が豪華だぞー」
 遠巻きに使用人たちの歓声を聞きながら、八左ヱ門は三郎について考えていた。

「三郎を、どうお考えですか」
 三郎が厠へ立った隙に白湯の碗を下げに来たところで、八左ヱ門の本音が、ぽろりとこぼれた。
「どう、って?」
 帳簿に目を通していたのを止め、雷蔵が問い返す。
「どうって、あの……三郎が、あやしいとか思ったことないんですか。何考えてるかよくわからないし……」
「ああ、ちょっと待って。ねえ、八左ヱ門、ここは『う』かい? それとも『ろ』? もうけっこうな時間悩んでいるんだ」
「ん? その字……番頭さんが慌てて書いたやつですね。それなら、『ろ』ですよ」
「あ! 分かったよ。これで意味が通った」
 さらさらと書き足しながら、雷蔵は「ねえ、八左ヱ門は、もっと三郎と喋ってみるべきだよ」と言った。
 遠回しな否定。八左ヱ門と三郎が、根本的に馬が合わないことなど、いつも間に立たされている雷蔵にはお見通しなのだろう。
「しかしあいつは俺と話そうともしません」 すかさず返す。「話したとしても関係が悪化するだけです」
 筆を置いた雷蔵は、しばらく考え込む様子を見せた。
「なら、八左ヱ門は三郎と話したいと思ったことはあるのかい?」
「まさか」
「だったら最初から話し合いができるわけないじゃないか。会話はね、お互いが喋りたいと思っていなきゃ、成立しないんだよ。もしうまくいかなかったとすると、片方が悪いわけじゃない。両方悪いんだ」
「う……」 痛いところを突かれた。真っすぐな視線が突き刺さる。
「八左ヱ門。おまえはもの言わぬ砂糖の声を聞けるみたいに、澄んだ綺麗な飴を作るじゃないか。私はいつもすごいと思っているんだよ。立派な技術だ。その点、三郎は喋れる。飴が言うことを聞かないよりは、よほどどうにかなることだと思うけど」
 誉められているのか、叱られているのか。
「もうやめてください旦那、俺、口じゃ勝てないです」
「商売してる時は弁が立つだろ?」
「旦那あ……」
「ごめんごめん」
 雷蔵は苦笑した。さすがにやり過ぎを悟ったように見える。大事な旦那にこてんぱんに言われ、八左ヱ門はぐったりしていた。