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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 翌日、ちょっとした事件が起こった。三郎がすぐ近くで喧嘩に巻き込まれたらしい。
「三郎は、三郎は無事なのかい?」
 奥から駆けてきた雷蔵を、なだめるように八左ヱ門が言い聞かせる。
「絡んできた相手を完膚なきまでにのして、無傷だそうですよ」
 くたん、と力が抜けた雷蔵を支える下男を、心の中で誉める。そこで気づいた。
「ちょっと待て、そういや、それならあいつはどうして帰ってきていないんだ?」
 当の本人が無事であることを見せるのが一番早い。雷蔵の不安を和らげたい一心で、八左ヱ門は語気を強くする。
「ええ、物が散らばったので、片付けを手伝って下さっているんですよ。お優しい方です……」
 情報をもたらした漬物屋の女房が深々と礼を言った。確かに見上げた行動だが、雷蔵を悲しませている時点で、八左ヱ門にはそんな立派なことのように感じら れなかった。雷蔵はまだ青ざめた顔をしている。たかだか喧嘩なのだから、多少大げさに見えるが、雷蔵はそれほど弟思いなのだ。
「旦那、すぐそこですから俺が行ってきます」
「ああすまない、頼むよ」 と薄く笑う様子も痛々しい。
 角を曲がったところにある現場は、商売上、重い石がそこらかしこにあった。三郎は場所がずれたそれらを戻していた。他はあらかた整え終えているようだ。
「おい」
「……おまえか」
 ひょいと振り返ってすぐに作業に戻る。態度は少々腹立たしいが、かまわない。とにかく早く片付けよう。八左ヱ門が協力するとすぐに終わった。
「うちの者がご迷惑をおかけしました」
 八左ヱ門は頭を下げた。
「いいえとんでもない! たまたま三郎さんがいらしてくださらなかったら、店はもっとひどいことになっていたでしょう……三郎さん、八左ヱ門さんも、ありがとうございます。あの、よろしければ……」
 漬物屋の主人はせめてものお礼と店の商品を差し出した。三郎は躊躇することなく笑顔で受け取った。
「おまえ、遠慮とかしないのか?」
 短い帰り道でたしなめる。答えるのも面倒くさそうな三郎は、欠伸をしながらこちらを一瞥しただけだった。
「おかえり二人とも。三郎、たいへんだったね。白湯でも飲むかい」
「ただいま。うん、ほしいな」
 見てくれ、兄相手だとあからさまに変わるこの態度。声を大にして言いたい。