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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 八左ヱ門は実にするすると、自分の推理を述べていった。しかし、三郎が雷蔵を殺すという肝心のくだりは、うまく誤摩化した。もし話せば、さっきの鳶色が恐ろしい結末を用意している気がしたから。
「ふんふん、俺が雷蔵に取って代わるねえ。もしくは言いくるめて蜂屋の売り上げを独り占めねえ。うんうん、まずはな、俺は経営のことはからっきしだ。あん たと違って、奉公先でも当たり前のように下男。ああ? あんたの出世が異常なんだよ。普通は上が辞めなきゃそうそう出世できねえんだ。変なとこで世間知ら ずだなあんた。雷蔵みたい」
 雷蔵を思い出してか、ふふ、とあの気持ち悪い笑いを浮かべた。俺で旦那を思い出すな、薄ら寒い、と口の中で呟く。
「まあ前者は俺程度のオツムではハナから無理なわけだが、後者はいただけないね。雷蔵を見くびっている。雷蔵は俺なんかに騙されるほど阿呆じゃない。俺よりよっぽど一緒にいれているっていうのに、あんたは雷蔵の聡明さをわかってない」
「分かっているさ。でも、旦那はあんたには甘い。甘すぎる」
「そりゃそうさ。俺は雷蔵のものだからな」
 ぐ、と空気を飲んでしまった。邪な妄想が始まりそうなところで、止められた。
「なに動揺してるんだよ。あんただっていわば雷蔵のもの、使用人だろ。同じ意味合いで取ってみればわかりやすい。思い出せよ、大事にされているだろう?」
「あ……」

 ふと、寝込んだ時に撫でてくれたつめたい手や、口にあてられた水差しを思い出した。朦朧としていた、いつの記憶だろう。たまに目ざめると覗き込んでいた微笑みだけを覚えていて、誰かなのかは理解できていなかった。
 そして、ただの手代を世話をしていたのが主人だったと後で分かって、八左ヱ門は感謝と説教を同時にしなければいけなかったのだ。あれは、困った。
「雷蔵は、俺と違って、あの店を保つ義務をもって産まれてきた。それはな、とんでもない責任だ。一体何人の人生を背負ってんだか。ひい、ふう、みい、まあ 両手じゃ足りないな。ただでさえ奉公人を養う必要があるっていうのに、雷蔵はその上、全員が好きなんだよ。悩んでいたら放っておけない。困ってたら助け る。自分は一番後回し。愛情深いっていうのか、まあ性格かね。大馬鹿さ。うん、そんな大馬鹿、みんな好きにならないわけないよな」
 最後のは自問自答だったようで、三郎はこくこくと頷いている。