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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「そのなかでもあんた」八左ヱ門が指される。
「あんたは特別だ。初めての友達なんだってな。それが楽しい時も苦しい時も、一番近くで支えてくれているんだ。あんたは、雷蔵が一番信頼する人間」
「え……」
「本人が言っていたんだよ」
 ……以前、そう三郎がやってくるまでは、少し自惚れ気味の自覚はあった。それでも誰かからその通り言われたのは初めてで、八左ヱ門の心臓は、ばくばくと動いていた。

「……そんな雷蔵が」
 三郎は意を決するように、八左ヱ門を真っすぐに見直した。
「店を、無責任に放り出すわけがないだろうに」
 熱かった体が今度は水をかぶったように冷たくなる。
 がくがくと、震えだしそうだった。

「お、俺は、旦那を信用してないわけじゃなくて」
 いや。何を言っても言い訳じみて聞こえる。八左ヱ門は口をつぐんだ。
 八左ヱ門の想像は、雷蔵を侮蔑するようなものだった。どれだけ大事にされているか、わかっていなかったのかもしれない。三郎の存在が、八左ヱ門の目を曇らせたのかもしれない。
 それでも、疑ってはいけなかったのだ。あんなふうに使用人たち、そして八左ヱ門自身を思っていてくれている雷蔵を。
 いいよなあ、と三郎が呟いた。
「俺は、たまにあんたが羨ましくなるよ」三郎は目を細める。「雷蔵と長い時間を過ごせたこと。ずるいよな。俺だってだって一緒にいたかった。あんたが自分 のためはもちろん、雷蔵のために休みもせず、せっせと働いていることも妬ましいね。俺には働くことに美徳なんか感じられないけど、おまえなんかは見ててい いな、って思う。働いた分だけ、雷蔵のためになれるって、贅沢だよな」
 そんなふうに考えたことなどなかった。たんなる嫉妬ではなく、誉めているようで目が丸くなる。自然と、こう言っていた。
「……働けばいいじゃないか」
 一緒に、蜂屋で。すると、心底意外そうに、
「おいおい、俺が客商売なんかできると思うか?」
 三郎は喉の奥で笑った。つられて、八左ヱ門も笑った。
「なんか、あんたなら雷蔵の話がたくさんできていいな。気に入ったよ」
 これは、慰められてるのかもしれなかった。諦めにも似た気持ちで、八左ヱ門は手を放した。

「こりゃどうも。そろそろ手を使わなきゃいけないんでね」
 三郎が自由になった手首を軽く回す。