飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】
二人は、圧迫感のある壁に囲まれていた。いつの間にか武家屋敷の方までやってきていたのだ。
「なんでここに?」
ここらの武家屋敷へは、何度か配達で来たことがある。いくら江戸のかなりを占めているとはいえ、そこで働く者でもなければそうそう通り道にするものではない。必要な物は、町屋ですべて手に入れられる。
三郎は無言だ。しばらく、会話もなく二人で歩いた。
「別に危ないことしてるわけじゃないさ」
そうならいい。さっきまで話し込んだおかげで、さすがの八左ヱ門も三郎を信用する気持ちが勝っていた。
入り組み、人通りもなくなった道の左右を確認しながら、立ち並ぶ屋敷の中でも特に薄汚れた厚い壁を撫でる三郎。何をやっているのか。……客観的に見ればさぞあやしかろう。
「もったいぶらず教えろよ」
わだかまりは大分解けた。そう突拍子もないことが出てくるとも思えないので、八左ヱ門は先を促す。
「怒んないか?」
腰をかがめているからって、雷蔵の顔で子供みたいな上目づかいをするんじゃない。文句も込めて睨んだ。
「あのな、これからこの屋敷に忍び込むから」
八左ヱ門は、つむじのあたりから毛が逆立った気がした。
俺の信用を返せ。
作品名:飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】 作家名:やよろ