飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】
6
暗い。
埃くさい。
顔の下半分を覆う手ぬぐいは汗臭い。
綺麗好きの八左ヱ門にとって、地獄だった。
忍び込むとはどういうことだ、と喚いていたのを黙らされ、あっという間につれこまれてしまった。どうやってここまで来たのかさえよく覚えていない。
八左ヱ門は天井裏に、腹這いにさせられていた。口に布をあてられ、上から三郎に押さえつけられている。とはいえ、力加減は弱いものだ。その気になれば強 引に除けられた。口の布も緩く、叫ぶことはできた。しかし、八左ヱ門はそうしなかった。三郎に危害を加えられるとは思えなかったのだ。
しばらくじっとしていると、目がだんだん慣れてきて、周囲の状況が分かるくらいにはなってきた。ぐるり見回す。
ここはたぶん、さっき見ていた屋敷の屋根裏。屋敷に応じて上もそれなりに広い。隅には黒い塊がいくつかある。つづらだ。屋根裏は物置としても使っているのだろう。遠くで動いたのは……ねずみだろうか。
さて。八左ヱ門と同じように伏せる三郎は、わずかな穴から屋内を覗き込んでいた。警戒しながら、三郎は小さな声で話し出した。
「数日前、とある商家から三両が盗まれた」
唐突な話だ。下に聞こえるのではないかと思ったが、どうやら今は誰もいないらしい。
三両とは、実に、寿司が五百貫食べられる値段である。商いを手伝う八左ヱ門でさえ、いっぺんに三両を見ることはそうそうなかった。番頭なら、あるだろうが。
「なに、その商家、商いはうまくいっているから、三両盗まれたって痛くも痒くもないだろう。でもまあ主人がいけない、しつこいんだな。面倒だし、俺は了承しかねたけど、あんまり神社に来るものだから、雷蔵が哀れに思って、下手人を探し出すことにした」
神社? 旦那が? 下手人探しをしている? いや、大体三両盗まれたらそりゃあ痛いだろうによ! 言いたい、訊きたいことはいくらでもあったが、とにかく頷いて続きを聞く。
作品名:飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】 作家名:やよろ