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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「下手人はすぐ見つかった。というより、あからさまだったよ。明らかにおかしかったのは、その店に出入りしていた、この屋敷の使用人。普段はいい奴らしい ぜ。近所の評判も悪くない。なににそそのかされたんだか、つい三両取っちゃったみたいだな。まあ、あやしいって以外にも、誰それが下手人らしき人を見たと か、他にも証拠はある。この男でほぼ決まりなんだ。……ところがどっこい、肝心の三両が、畳をひっくり返しても見つからなかったんだよなあ」
 すでに一度潜り込んだ言いように顔を顰める。三郎はにたりと笑った。
「まあ、切羽詰まった依頼でもないし、今日粘ってだめだったら、もう諦める。金にがめついあのじじいの言いなりなのも癪だしな。ちいと待てよ」
 粘るな! 今すぐここを出ろ! 俺に話を頭からちゃんと説明しろ! それよりも前に、説明なんかする気ないんだろ! そう言いたくて体を捻ったら、懐に入っていた瓦版が落ちた。この間読んだものを、入れっぱなしだったらしい。
「ん?」
 薄暗闇でも、三郎の目は正確に文字を辿っていた。取り憑かれたように凝視している。八左ヱ門は声をかけそびれて、ごくりと唾を飲んだ。そのついでのよう に、さっきまで三郎が覗いていた穴を見ると、下に使用人らしき男の影が見えた。驚いて、三郎の袖を引っぱる。しかし、当の本人は瓦版に夢中で反応がない。
「そうか……」
 しばらくして三郎は、ずらかるぞ、とだけ言った。
 もう? と八左ヱ門が突っ込んだのは言うまでもない。

 塀を乗り越えるまではなんと抱えられていた八左ヱ門だが、無事地面に戻ってからはひたすら三郎を追うしかなかった。三郎は足が速くて、追いつくのもやっとだ。
「おい、待てよ!」
 ぽつり、またぽつりと、雨が頬を叩く。大粒で、四方八方跳ねる。この世に三郎と八左ヱ門しかいないみたいに、江戸からは、さっと人が引いていた。そんな中、三郎はただただ走るのだ。
「どこに行くんだよ!」
 またどこかへ忍び込むのかという心配から出た言葉だった。しかし反して返事は簡素な、帰る、というもの。
「蜂屋に?」
「そう!」
 こいつ笑ってる? 八左ヱ門がそう思っていると、笑顔の三郎が振り向いた。
「帰ったら、ついでに色々教えてやるよ!」
「はあ?」
 雨で冷えて、耳が馬鹿になったかもしれない。言われるはずのないことを言われた。
「ちょっと待て!」