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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 目に入ったのは、帳簿の上にあった筆。何をすればいいか、瞬時に理解した。
 ……三郎なら、きっとわかる。
 不安には思わなかった。
 八左ヱ門は、速くはないが無駄のない動きで、そっと筆を取り、男の後ろの釜めがけて投げた。
 コン! と小気味良い音が鳴る。
 男の首が、わずかにそちらを向いた。
 三郎の動きは速かった。さっとしゃがみ、男の視界から消える。慌てた男がよろけた時には、すでに背後にまわっていた。尖らせた拳で男の腕の内側をぐりりとえぐると、右手がはらりと開き、刃物が床に落ちた。とんとん跳ねたそれは、なんてことはない、ただの包丁だった。
「縄!」
 三郎が叫ぶ。下男たちが大急ぎで探しに行った。腹這いの男は、三郎がなんとか肩を地面に押しつけているものの、ばたばたと足を動かし逃れようとしている。八左ヱ門は咄嗟に店の方へ下りて男の背に片膝を乗せた。ぐえ、と短い悲鳴が上がる。男はおとなしくなった。
 まだまだ油断はできないが、少しばかりほっとする。雷蔵の腕の中で強ばった表情見せるトモミと目が合った。安心させたくて、ぎこちなく笑ってみせる。トモミも、同じくらいのぎこちなさで笑い、けれど、ゆっくりと頷いた。
「てめえ、今度はうちに強盗に入るたあ、いい度胸してるじゃねえか」
 三郎は息を切らしながら、だん、と男の肩を押す。男は低く唸り、三郎を睨みつけた。
「また……邪魔しやがって!」
「漬物屋ではどうも」
「……三郎、もしかして、その人……」
 ようやく届いた縄で男を縛りながら、三郎が頷いた。
「……あ!」
 天井から見た憂い顔。なんと下手人は三両を奪った男だったのだ。