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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 雷蔵は巧みに男とその主をたたえる。すごいやら呆れたことやら、男が話すのは七割が主のこと、残りが自分のことだった。とんだ主馬鹿、溢れ出るのは主へ の思いと、自負。男がやったことさえなければ、楽しんで聞けたかもしれな話。しかし、現実では腹立たしさは増すばかりだった。雷蔵の優しい声が無ければ、 八左ヱ門は今にも部屋を出て行ってしまいそうだった。
 そして忍耐強く待つことしばし、ようやく男は金が入り用な理由を話しはじめた。
「不治の病……?」
「……はい。旦那様は、もう長く、ないんだそうです」
 男の勤める屋敷の主は、最近になって急に体調を崩した。明るく快活だったという主は、日に日にやせ衰え、弱々しく床に臥せるばかりの毎日を過ごしている。唯一の楽しみは食事で、男は毎日腕によりをかけて料理をしているのだという。
「旦那様は裕福な武家のお生まれで、金に困ったことがありません。ですが、旦那様が臥せってしまってから、働けず、諦められたのかご実家の助力もなくなり、金子が少しずつ尽きてきてしまって……」
「暮して行けなくなったのかい」
 そのはずはない。飢饉がおこっているならともかく、家を持っているお武家がこの江戸で暮して行けぬはずはない。金が足りなくなる理由と言えば、ただ一つ。贅沢だろう。
 しかし、男は頷いた。
「……あの。私はできるなら、旦那様に一番美味いものを一番良い状態で食べて欲しくて……」
「こういうことをしたわけだね」
「……はい。すみませんでした。愚かなことをしました。許していただけるでしょうか……」
 半笑いで、男は頭を下げた。軽い、それだけの謝り方。
 男のしたことは、それで済むようなことだったのだろうか。蜂屋の皆を殺そうとした、この男は。
 雷蔵がため息を吐くと同時に、八左ヱ門は頭が冷えてゆくのを感じた。思い出すのはトモミの青い顔だったり、下男たちの手の震えだったりした。皆、あの恐怖を抱えたまま、三途の川へと導かれるところだったのだ……
 気づいた時には、八左ヱ門は男の顔を殴っていた。

「八左ヱ門!」
 雷蔵の厳しい声で止められる。しかし八左ヱ門は、仁王立ちしたまま、一歩も動かない。例え雷蔵へでも謝れなかった。この世には、どうしても許せないことがある。