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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 強くはなかった拳は、けれど鼻に直撃していて、男は畳の上でもんどりうっている。
 雷蔵がどうしようと戸惑うのを、横で呆然と見ている三郎。
 穏やかな雷蔵が人を殴った。一番驚いていたのは、彼なのかもしれない。
 そしてその理由は三郎自身なのだ。
「ごめん……あの、つい……」
 男は手ぬぐいで鼻血を拭おうとした雷蔵の手をはらう。
「なんなんだよう、畜生、畜生、ちくしょうちくしょう! なんでみんな俺を殴るんだよおお、俺は正しいはずだろう!? 旦那様が全てなんだ! なんでみんなわからないんだ!」
「で、でも! それは私にだって一緒なんだよ!」
 眉を下げて雷蔵は訴える。
「手を挙げたのは本当にすまない。でも、私も、君が旦那さまを思うように、三郎が大事なんだよ? お願いだ、分かってくれないか、三郎を悪く言わないでおくれ……」
 その懇願に一体どれだけの心が詰まっているのだろう。八左ヱ門には伺いしれない、雷蔵から三郎への、負い目、約束、そして愛情。つらいことを乗り越えて 共に生きようと誓った二人。それこそ、男だって、二人のことは何も分からないのに、知った顔をして二人を傷つけるのだ。もうやめてくれと叫ばせるほどに。
「おまえらに何がわかる! お優しい旦那さまの、あのお姿がもう見られなくなる私の気持なんて、わかってたまるか!」
「おまえにだって、こいつの、三郎の何がわかってるっていうんだ!」
 今度は八左ヱ門が三郎にぽかんと見られる番だった。一瞬よぎった恥ずかしさは、それに勝る衝動に打ち消される。
「おまえよりこいつと付き合いが長い俺だって、なんにもわからないのに。こいつの悪いところも良いところも、まだ全然見つけきれないのに。そりゃあ過ごした時間が全てじゃないけど……軽いとか、んなこと勝手に決めつけるんじゃねぇや!」
 男は、顔を真っ赤にして、きっ、とこちらを睨みつけるが、言い返すことができない。
 言ってしまうと、胸の奥がすっと晴れていくのを感じる。それは、男に言ったのか、過去の自分自身に言ったのか。
「八左ヱ門……」
 いいから、三郎はそんな顔で俺を見るのは良してくれ。旦那も、涙ぐむのは止めて下さい。鼻が赤いと、また三郎に猿と似てるって言われますよ。