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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「……三郎の身元確認がとれたからもう大丈夫ってどういうことなんだよ。人のこと都合良く振りまわして、色々隠して。そういうのは美人の特権だぞ? おまえは男だろ? あぁーん?」
「兵助。俺が悪かったから。猫じゃらしで頬をつつくのはやめてくれ」
 豆腐屋の横で、恒例のやいのやいのを繰り返す二人は、普段の力関係を逆転させて、兵助が八左ヱ門を劣勢に追いこんでいる。
「教えてくれたらやめる」
「頼むよ。俺ぁ嘘は苦手だから、言えねえってことしか言えないんだって」
「ふうん」
 唇を尖らせる豆腐屋の倅は、ひとまずねこじゃらしを下げる。
「別にいいもん。俺は喜八郎から色々聞くから。ふん」
「まあ、もし猫が喋れたら確かにいろんなこと知ってそうなもんだな」
「……まあね」
 おうい、喜八郎。
 兵助が間の抜けた声で愛猫を呼ぶと、屋根の上からぴょいと降ってきた。
 珍しく鳴かないなと思っていたら、それも当然、口にとんでもないものを銜えていたのだ。
「ひ!」
「あ。鰹の骨だ」
 飛び上がった八左ヱ門の横で、やけに冷静に兵助が観察する。
「よ、よく鰹のだって分かったな、特大だぞその骨」
 なんとその骨は八左ヱ門が二人並んだくらいの長さだ。喜八郎の小さな顎でそれを引きずってこれたのかが不思議なくらい大きい。
「うん、なんとなくね。わあ、こりゃまた伝説が増えたなあ、喜八郎。おいで」
 兵助が手招きすると、喜八郎は骨なんかポイと放って、すぐさま定位置の懐に潜り込む。兵助も賢い喜八郎の頭をふにふにと撫でてやる。喜八郎も、にゃ、とどことなく明るい鳴き声だ。
 八左ヱ門はすっかり興味をなくされた骨をつまんだ。
「しかしこりゃすごいなあ。おもしろい。旦那に見せに行こうかな。兵助、おまえも来いよ」
「いいの? 呼んだからには飴もおくれよ?」
「抜け目ないな……」
 まあ仕方ない、とあげる失敗作を頭の中で思い描いてから、八左ヱ門は兵助を招き入れた。

「ねえねえ。結局さ、三郎は雷蔵と恋仲なわけ?」
 離れへの道を進みながら、兵助が問う。
「ん? それがな、俺の見立てでは違うね。あの二人は確かな絆で結ばれているから、逆にそういう恋愛感情は生まれないんじゃないかって」
「……兄弟とかってこと?」
「そうそうあれは兄弟愛だ。最初の頃は色々疑っちまったが、ありゃおれの考えすぎだった」
「……」