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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 例えば、三郎は来たばかりの頃こそ殊勝に働かせてくれとのたまっていたが、今となっては一日中ふらふらしているだけだ。働かざる者食うべからずを実行しようとしても、雷蔵が愛しい弟を一生懸命庇う。
『三郎にも事情があるんだよ。前にたくさん、たくさん働いたんだから、今だけいいじゃないか、ね?』
 主にそう言われては、手代ごときが独断で飯を抜かすわけにもいかない。
 理由なくつながる手。近すぎる顔。幸い、口を吸いあうなど決定的な場面に出くわしたことがないので、ひょっとしたら八左ヱ門の気にし過ぎなのかもしれないが。直接見ていない分、妄想ばかりが大きくなる。
 大事なあるじ雷蔵と同じ顔の三郎が互いに微笑みあう。ひどく倒錯的で目眩がする。
「私もこれはいけると思うよ。八左ヱ門、お願いね」
「へい」
 何はともあれ、「桜色」は無事店に出す事ができそうだ。ひとまず肩の荷が下りる。
「そんじゃあ、八左ヱ門、出てって!」
 主とよく似た声が笑みを含んだ声で言い放った。こめかみに青筋が出来そうだ。
「……なんでてめえにそんな事言われなきゃならねえんでい」
「三郎! もう、八左ヱ門にそんなふうに言っちゃ駄目だよ。でも、ごめんね、八左ヱ門。ちょっと三郎と話があるんだ。ついでに人払いもお願いできるかな?」
「あ、はい。かしこまりました」
 一礼して部屋を辞する。三郎と話だなんて、何があるんだろう? まさか……
「いかんいかん!」
 布団がもぞもぞと動く嫌な想像をしてしまった。大切な「桜色」を抱いて、八左ヱ門は店へと戻っていった。

 店先では番頭と顔馴染みが話し込んでいた。
「あ、八左ヱ門、こんちは」
「兵助じゃないか」
 思わずこんちはと返すと向かいの豆腐屋のせがれが笑った。
「新作の飴、味見に来たよ」
「どこから嗅ぎ付けてきたのやら」
 八左ヱ門が苦笑する。久々知兵助は豆腐と結婚したがる男として近所でも有名だったが、蜂屋の飴もたいそう気に入っていた。憎めない性格から蜂屋の奉公人にも好かれており、誰かから新作の噂を聞きつけて飛んでくる。
「その前に懐のをどうにかしてくれ」
「ああ、これかい」
 兵助の着物の合わせからぽんと猫が顔を出す。艶やかな灰の毛並みと、深い緑色の目。人間だったら大した美丈夫だろう。
「喜八郎は飴屋につれてくるなって言っただろう、飴に毛が入ったらどうするんだ」