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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「置いてくるなんてかわいそうだろ。この子は賢いし暴れたりしない。平気だよ」
 みゅうと猫は気持ち良さそうだ。愛しげに撫でる手つきは見ていて和むものだが、問答無用で兵助ごとつまみ出した。
「ひどい! 八左ヱ門の鬼!」
「鬼は鬼でもこちとら仕事の鬼なんだよ!」
「じゃあ飴をおくれよ!」
「なら約束は守れよ!」
 背後で番頭や奉公人やらがひとしきりけらけらと笑い、仕事に戻っていった。なんだかんだで兵助は八左ヱ門にとって大事な友人であることは分かっているので、誰も喧嘩を心配しない。現に、根負けした八左ヱ門は店の外であっさり新作を分けてしまっていた。
「むまいなあ。蜂屋の飴はいつも身体に染みるよ」
「そうかそうか」
 雷蔵と兵助に誉められた飴はいつも売れる。これでこいつも安泰だ。
「ああ、そうそう。頼まれていた件だけれど」
「おお、調べがついたか。で、どうだった? あ?」
 兵助は周りを見渡し、声を潜めた。
「三郎のいたとこ、やっぱり火事になんかなってなかったみたいだ。最近辞めた奉公人がいるかどうかも訊いてみたけど、三郎って奴はいないって。そのかわり、次郎って奴は心あたりがあるとか」
「三郎は偽名かい。太郎次郎三郎ってとこだな」
「雷蔵と同じ顔の人を疑いたくないけど、あやしいよあいつ。なあ、喜八郎」
 猫もにゃあと鳴く。不思議と頷いているようにも見えた。八左ヱ門も同じ意見だ。兵助は、三郎には気をつけるよう注意してから自宅へ帰っていった。
 突然表れた、主人と同じ顔の人間。そして嘘。さてどうするか。もくもく不安がわいてきた。