旬
「ミク! 聞いてよミク!」
モニターを見つめながら歓声を上げるマスターの元へ向かうと、ほら見てこれ、とモニターを指された。
覗くその先に書かれた文字に、私は直後目を見張る。
「さい、ゆうしゅうしょう…って、す、すすすごいじゃないですかマスター!!」
「嘘じゃないよな!本当だよな!?」
マスターが最優秀賞受賞!
凄い! 本当に嬉しい!
興奮のあまりマスターと手を取り合いきゃっきゃっと騒ぐ。マスターの手はぐっしょりと汗で滲んでいた。
「どうしよう! 本当にこんなことが、起こるなんて。お、俺なんか、俺なんかに!」
「違いますよ! さ、最優秀賞ですよ! もっと胸張って下さい!」
どうしよう! 最優秀賞! と、文法のむちゃくちゃな会話をひとしきり終えた後、私たちは顔を見合わせ、くすくすと笑った。
しかしもう一度おめでとうございますを伝えようとして、ふと、マスターの顔が冴えないことに気付く。
「……どうしたんです?」
「あのさ、これ、来週授賞式あるんだ」
どうしよう、と呟き、そのまま背中からベッドに倒れる。
そんなマスターを見て、ちょうど朝起こす時みたいに、両手に腰をあててマスターを見下ろした。
「折角の受賞ですよ。行かないでどうするんですか」
「うう……でも……」
「でもじゃありません! マスター、受賞したの嬉しくないんですか?」
「わかった、わかったよ。行くよ俺。頑張るよ」
「はい。あ、ちゃんとした格好で行かなきゃダメですよ」
そう言ったらまた最優秀賞という言葉が頬をやんわりとほぐしてきて、ふふっと笑ってしまう。
この時の私は、この先に起こることをまだ全く予想していなかった。