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パロ詰め合わせ1

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3.陰陽師パロ-2-




 ふわりふわりと雪が舞う。
 初夏の京の都に、けして積もることのない雪が降り始めたのは五日ほど前のことだった。
 すぐに帝に呼ばれた菊をはじめとする陰陽師たちはこの原因がなにかを調べ、物の怪や怨霊の仕業ならば祓うようにと命令された。何人かは帝の傍に付き、その御身を守るために祈祷を行っているという。
 正直、帝付きにならなくてよかったというのが菊の素直な感想だ。祈祷ができないわけではない。自画自賛になるが、ちからはあるていど強い分類だと思っている。
 しかし契約している式神がアーサーを含めた攻撃に長けた物の怪ばかりなのだ。祈祷となると式神たちの協力を得ることはできない。自分が契約している式神たちはみんな気の良い者たちばかりなのだ。こんな一大事に自分たちがちからになれないと嘆かれるのは、菊としても心苦しい。
 
 だが、いま菊はそんな己の考えの甘さを痛感していた。
 ちからの強い式神がいるのだから、都に雪を降らせるような強力な物の怪など、どんなに巧みに姿を隠していようがすぐに見つけることができた。強い者同士は共鳴し、無意識に惹かれあうのだ。
 そして己のちからを過信しすぎて、きちんとした準備もせずに物の怪の住処まで来てしまったのも菊の犯した間違いのひとつだった。しかも、そんな準備不足で最低な状況にアーサーを連れてきてしまったことも自分の配慮不足だ。
 ぎりりと奥歯を噛む。そんな菊をかばうように、アーサーがこちらに背を向けて立っている。
 その先に、一人の男がいる。
 アルフレッドに「用心しろ」と言われた誰も住んでいない屋敷の階に、その物の怪は腰をおろして楽しそうにアーサーと菊を眺めていた。
 人間である菊にも、この物の怪がどれほどのちからを持っているのか伝わってくる。だからきっと、おなじ妖であるアーサーは神経がびりびりと高ぶるほどに感じているのだろう。
「退屈そうな国だと思ってたけど、楽しそうな人たちに会えてうれしいなあ」
 柔らかくて男にしては高い声。その中には憎悪や嫌悪のような負の感情は含まれていないように感じた。表情や声から伝わってくるのは、ただただ楽しいという感情だけだ。
 けれどこちらに背を向けているアーサーには、また独自の見解があったらしい。
 九本の尾の毛がぶわりと広がり、アーサーの髪の毛が逆立つ。耳もピンと立ち上がり背中から彼の緊張が伝わってくる。
「……菊」
 アーサーがかすれるような声で菊の名を呼ぶ。視線を向けると、彼はこちらを振り向かずちいさな声で言った。
「あいつの後ろ、おまえにも見えるか?」
「後ろ、ですか?」
 言われるがままにアーサーの背後から男の背後へ視線を投げるが、そこには真っ暗な空間が広がっているだけだ。とくになにかがあるようには見えない。
「私にはなにも見えませんが……」
「そう、か」
 アーサーの声にさらに緊張が走るのがわかった。
「どうかしましたか……?」
 そんなアーサーにつられて、菊もいくぶんか緊張した声音で問うた。するとアーサーはきゅっと両手を握りしめて、しぼりだすように呟いた。
「あいつ、妖を使役してる。たぶん、三匹だと思う」
 まさか、という声が夜の静寂の中に響いた。
 妖を使役し、式神とする術は人間にのみ許された行いのはずだ。そもそも、妖が妖を使役するなど聞いたことがない。普通ならば妖はより強いちからを得るために、使役するのではなく相手を『食らって』吸収し、己のちからにするはずだ。
 困惑する菊にアーサーがなにか言うよりも早く、男が楽しそうに笑った。
「きみ、わかるんだねえ」
 階から腰をあげ、男は一歩踏み出した。そしてわかる。菊には驚くほどの長身であるアルフレッドとおなじくらいか、それ以上に上背があり体格が良い。
 月明かりの下に出てきた髪色は銀色に見えた。瞳の色はアーサーの碧ともアルフレッドやフランシスの蒼とも違う。ひらひらと雪が舞う中、見たこともない裾の長い白い服が揺れる。
「あっちにはもう面白い子もいないからなんとなく来てみた国だけど、すごい掘り出し物を見つけちゃった気分だよ」
「どういうことだ?」
「きみを僕の子にしたいってことだよ」
 にっこりと笑って男はそう言った。菊はその笑みにぞくりと背筋が震えたのだが、すこし前にいるアーサーは違ったようだ。
 背後にいてもわかる。彼は笑ったようだった。
「俺がしばらく時間を稼ぐから、おまえは一度逃げろ」
 この状況でそんなことを言うのだから驚いた。菊は慌てて食い下がる。
「で、ですがっ」
「まさかこんなヤツがこんなところにいるなんて思わなかったから準備不足だろ? ここで無理するのは得策じゃねーよ」
「それは理解してますが、アーサーさんを置いてはいけませんよ!」
 菊が鋭い声で言うと、アーサーは肩越しにこちらを振り向いてニイと唇の端を吊り上げる。
「なに言ってんだよ。俺はおまえとは違うから、ちょっとくらい無理しても平気だ。でもおまえは違うだろ? そもそも、俺はおまえと契約してるからおまえが無事なら俺も平気だから」
 その言葉で、菊には彼がなにを言いたいのかまで理解できた。
 この男は菊とおなじで妖を使役するちからをどういうわけか持っている。そして彼は、あわよくばアーサーを使役したいと言っているのだ。
 しかし、彼の計画にはひとつだけ問題がある。アーサーは菊と契約しているのだ。人間はひとりで何匹もの妖と契約できるが、妖は一度誰かと契約すると、その契約が破棄されるまで他の者とは契約できない。
 契約を破棄する方法はおおきくふたつ。
 ひとつは術者が死亡すること。そしてもうひとつは、術者と妖のお互いが納得して契約を破棄することだ。
 ようするに、菊さえ逃げてしまえばアーサー自身はどうにでもなるということだ。
 けれどそれは、あの男がアーサーを使役できないというだけで、完全なちから勝負になればアーサーも無事では済まない。だから菊はおとなしく彼の言うことを聞くことができず、その場から動けなかった。
 そんなことはアーサーも承知の上だったのだろう。彼は動かない菊をちらりと見て、すこしだけ嬉しそうにほんわりと微笑む。そしてきゅっと表情を引き締めて男へと視線を投げ、そのまま大声で叫んだ。
「おいこら、くそひげ野郎! そこで見てないで出てきやがれ!」
 急にそんなことを言いだすので、いったいなにごとだと菊はかなり驚いた。なんとなく男へと視線を向けると、彼も菊とおなじような顔をしてアーサーを見ている。
「フランシス! そこにいるのわかってんだぞ!」
「へいへい……。聞こえてますって」
 どこからともなくフランシスの声が聞こえてきた。そしてするりと、まるで滑るように木の陰から男が姿を現す。
「ふ、フランシスさん。いつからそこに……」
「そいつはずっとそこにいやがったぞ」
 呆れたように言うアーサーの言葉に、男がくすりと笑った。
「僕も全然気付かなかったなあ。すごいね、期待せずに来た国でもうひとり面白い子見つけちゃった」
 のんきな声でそんなことを言う男を菊は睨みつけるが、彼はなにも感じていないように涼しい顔をしている。そんな男には取り合うこともなくフランシスは続けた。
作品名:パロ詰め合わせ1 作家名:ことは