パロ詰め合わせ1
「だって、お兄さんはアーサーとかでたらめなアルフレッドと違って普通なんだもん。ここで出て行ってもなあんにもできないし」
「いまはてめえにもすることあんだろ。さっさとしろよ!」
アーサーが鋭い声で怒鳴る。それにフランシスはちいさく溜息をついて、かりかりと耳の後ろ掻いた。
次の瞬間だった。菊の視界の先で、ふっとフランシスの姿がかき消える。
まるで幻のようだった。驚きで唖然としていた菊の背後から誰かの靴音がして慌てて振り返ると、いつその場所に移動していたのか、涼しい顔をしたフランシスが立っている。
「ふ、フランシスさんっ!」
「はいはい。ちょっとごめんよー」
フランシスはそう言ってひょいと菊の身体を肩に担ぎあげた。抵抗する間もなく、まるで米俵にでもなった気分だ。
「ちょ、ちょっと、おろしてくださいっ!」
「そういうわけにもいかねえんだよ、ごめんねえ」
「あなた、扇以上に重い物なんて持ったこともないとか言ってたじゃないですか!」
「そうそう。でもこれからは菊ちゃん以上にっていうのに変えとくから」
「そういうことじゃありません! 放してください。アーサーさんダメです! ひとりで戦わせませんからね!」
なんとしてでもここに残ろうと叫ぶが、アーサーは微笑ましそうにこちらを振り返って笑った。
「まかせたぞ、フランシス」
「しかたねえなあ、ほんともう」
「私の話を聞いてくださいおふたりとも!」
菊が必死に叫ぶが妖ふたりはどこ吹く風だ。こちらの意見など聞きもしない。
制止など無視され、フランシスは菊を肩に担いだまま走り出した。まるで人など担いでいないような軽やかな足取りで、フランシスはどんどんアーサーから離れる。そして屋敷の表門まですぐにたどり着いてしまった。
このままではほんとうにアーサーを置き去りにしてしまう。菊は必死に揺れる肩の上で頭をあげて自分の式神でもある九尾を見た。
彼はどこか幸せそうな表情で、じっと菊を見ていた。そして唇が「すぐに帰るから」と動くのがわかる。
「絶対ですよ!」
菊は思い切り叫んだ。言葉はちゃんとアーサーに届いたらしく、彼がひらりと右手を振る。それを最後に、フランシスが表門を抜けて曲がり、アーサーが見えなくなってしまった。
あんな男に無傷で勝てるわけがない。それをわかっていて式神を置き去りにしてしまったことは、菊が陰陽師としてちから不足な証拠だった。
くやしい。唇をかみしめて、空を見あげる。
そこからは相変わらず、季節はずれの真っ白な雪が降り続いていた。