ルノ・ラダ ~白黒~
幼馴染
夜寝ているところを不意に襲われた。
口を手で押さえられ、誰かが布団の上からのしかかるように乗ってきたので動けない。
不覚。
まずそう思った。
この自分が誰かの侵入を許し、ここまで気付かないとは・・・。
「しっ・・・。静かにして、ラダ・・・。」
この声は・・・?
しかもこの気配・・・。
暴れもがこうとしていたラダはピタリと動かなくなった。
「手を離すよ?いい?騒がないでいてくれるかい?」
侵入者の質問に、ラダは辛うじて頭を動かし縦にふった。
侵入者はホッとしたように力を抜き、そっと手を離した。
「ジョ・・・ウイ・・・?」
「・・・久しぶりだね、ラダ。」
なぜあのジョウイがここにいる・・・?いったいどういう事・・・?
ジョウイは手を離したものの、まだラダの上からはどいていないのでラダは同じ体勢のまま驚いて目を見開いた。
暗くてよく見えなかったが、だんだんと目が慣れてくる。
やはり間違いなくジョウイだった。
なぜ・・・?
今はハイランドの皇王として自分とは敵対する相手なのに・・・。
家族のように一緒にいた親友。
もう元には戻れないのだろうか、と何度も淡い想いを抱いた。
しかしそれももう儚い夢だと諦めるしかなかった相手。
・・・ジョウイ。
まさか君は私を直接倒しにきたのか・・・?・・・まさか・・・。
「ど・・・うして?いったい・・・?」
「僕が放っている忍びから聞いた。ラダ・・・。君、恋人が出来たんだって・・・?しかも男の!?」
「・・・は・・・?」
敵領地の、しかも本拠地に入り込み、危険も顧みず敵対する相手方のリーダーの部屋にまで忍び込んでまんまと寝首をかくのに成功している者の言う台詞とは思えない。
ラダは耳を疑った。
「隠さないで言ってほしい。本当なのかい?本当に男の恋人がいるのかい?」
「・・・え・・・っと・・・。う、うん。そうだけど・・・。」
「何てことだっ。ああラダっ。君は昔から色々な男達に嫌な目に合わされてきて、男が嫌いだったんじゃなかったのかい!?だから僕も・・・だから親友という座に甘んじて居座っていたっていうのに!!ああっ。こんな事ならさっさと君に想いを伝えておくんだったっ!!」
ジョウイはラダの上に乗ったまま頭を抱えて大げさと思えるくらい苦悩しているようであった。
「あの・・・ジョウイ・・・?」
既に涙目になってしまっているジョウイは、ハッとラダを見る。
「・・・最近の事なんだろ・・・?もうそいつとは寝たのかい!?」
「ど、どうしちゃったんだ・・・?」
「答えてっ。」
「い、いえ、まだです・・・。」
思わず引き気味でラダは答えた。
ジョウイはそうか、と呟くと素早い動きでラダから退き、布団をはがした。
ラダは起き上がろうとしたが、それより前に、またジョウイが押し倒してきた。
「ちょ、ジョウイ!?」
「こうなったらそいつより先にラダ、君を奪う。」
「な、何の冗談!?ジョウイ、大丈夫!?つ、疲れてるんだね!?」
ラダは引きつりながらも、冗談であって欲しいと願いつつ叫ぶように言った。
「いや・・・。本気だよ?僕がどんな想いでここまで侵入したと思ってるんだい?」
やばいと思ったラダはジョウイを引き剥がそうとするがまったく歯が立たない。
「無理だよラダ。君が僕に勝った事なんてほとんどなかったじゃないか。それに今僕は力強化の紋章を宿しているしね。」
本気でまずいとラダは思った。
ジョウイがここで捕まってしまうのは嫌だと思っていたがそんな事を言っている場合ではない。
こうなったら大声を上げて誰かに来てもらうしかない。ラダは叫ぼうとした。
「だめだよラダ。」
ジョウイはそう言うとラダの唇に自分の唇を合わせてきた。
これじゃあ騒ぐことも出来ない。
ていうか何するんだジョウイ、マジですか!?
ああ、どうしよう・・・。
あ、でも先程既にジョウイが五月蝿かった。自分も一度叫んだ。それで誰か気付いてくれていないだろうか・・・?
「っんっ・・・ううっ・・・」
どかそうと抵抗したがやはり無理だった。
これじゃあ逆に相手を興奮させるだけ・・・?どうしよう、こうなったら紋章・・・ってだめだ。手を封じられているから使えない。
そうこうしている内にどこにもっていたのかジョウイはハンカチのような布を片手で出し、口を離したと思ったらそれをラダの口に詰め込んだ。
そうして同じくどこに持っていたと疑問が湧くが布紐のようなものをラダの両手首に巻きつけ縛り、それを頭上にあげてベッドに固定させる。
足のほうは相変わらずジョウイがのしかかっている為動かせないままだった。
ラダは口から布を出す事も出来ず体も動かせず、どうしようもない状態となってしまった。
目から涙がこぼれる。
ジョウイ・・・。ほんとにどうしちゃったの・・・?
「ラダ・・・。ごめん。でも僕はずっと子供の頃から君の事が好きだったんだ。今更他の男に取られるなんて耐えられない。」
「んんんっ、うぐぐ・・・」
「またこんな薄い衣1枚で寝てるんだね?だめだって言っただろ?僕ならまだしも、誰かに見られたらどうするんだい?」
「んぐぐっ・・・」
「ふふ、何言ってるのか分からないね・・・?でもだめだ。今のラダは大人しくしてくれそうにないからね・・・。」
ジョウイがおかしくなったと思ったが、彼は子供の頃から好きだったと言った。
という事はあんなことやそんなことをしていた時もこいつは邪な気持ちでいたっていう事か?
ずっと友達だと思っていたのに実はジョウイは小さい頃から自分の事をそういう目で見てたという事か?
違う意味で泣けてきそうだった。純粋な涙を返せ。
「んぐー」
もうだめだと思った。その時ノックが聞こえ入り口が開いた。
「・・・ラダ・・・?ごめん、なんか起きてる気配したから・・・。シュウがね、明日の事で伝えたいことがあるっていうんで僕に伝言を頼んできたんだ・・・。誰に頼むよりもなぜだか分からないけど僕がいいと思ったんだって・・・。」
ああ、ルノの、愛しい人の声が聞こえた。
ここからも入り口からもお互いまだ見えないが。
ホッとしたが、よく考えたら今ルノがここに来るのは危険なんじゃ・・・?ジョウイはもはや何をしでかすか想像できない。
「んー、んー」
しかし伝えるどころか声が出せない。
「あれ・・・?ラダ・・・?・・・っ誰っ!?」
ラダ以外の気配を感じたのか声色が変わり、次の瞬間にはルノが現れた。
「!?」
まずルノは混乱していた。
だが縛られ布が口に突っ込まれ、涙を流しているラダに気付くや否や棍が振り下ろされた。
「誰だ!?」
ジョウイもすばやく棍を出し(て、どこに持っていた・・・?)それを防ぎながら言った。
「お前こそ誰・・・?ラダに何してる・・・?」
怒っている。
ラダは驚いた。
あの温厚なルノが、静かに、だが恐ろしく怒っている。全身からまるで怒りのオーラが見えるようだった。
「・・・僕を知らないって事は新参者か?僕は・・・ラダの・・・元親友だ。」
元って何。
今は敵対しているから?そういう事・・・?もう友でも何でもないって事?ていうか友達ならこんな事しないだろうが・・・。
作品名:ルノ・ラダ ~白黒~ 作家名:かなみ