ルノ・ラダ ~白黒~
思い
「あーひでえ目に会ったぜ。」
「まったくだ。」
パーティーがブツブツ言いながら鏡から帰ってきた。
森の中にいる時に急な土砂降りにあってしまった。
雨宿りをするような場所もなく、仕方なく皆は大急ぎで森から脱出し、またたきの鏡を使って城に帰ってきたのであった。
「こりゃすぐ風呂で暖まらないと風邪ひくな。」
ビクトールが言った。
「ほんとだね。」
オウランが同意した。
メンバーは今回はラダ、ルノ、ビクトール、フリック、オウラン、ルックである。
「この時間ならそれほど混んではいないだろう。じゃあ行くか。」
フリックも水を滴らせながら動き出した。
ルックが言った。
「・・・ラダはどうすんのさ?」
「あー・・・」
全員がはた、と停止した。
ルノだけが、?と首を傾げて皆を見た。
「え?ラダがどうしたの?」
「もう、いいじゃないか。少なくともあたしは構わないよ?」
「いえ、さすがにそういう訳にはいきません。」
構わないと言ったオウランに、ラダは首を振る。
「んー特別に頼んで貸切にさせてもらうかあ?別に俺らなら大丈夫だろ。」
ビクトールが頭をがしがしと掻いて言った。
「でもそれでは他に入りたい人に迷惑がかかるではないですか。・・・私が我慢します。」
「いや、だめだ。やはり貸切にしてもらおう。さすがに今女風呂に入るのはいくらなんでも厳しいしな。」
フリックが頼んでくる、と言って先に行ってしまった。
「・・・すみません。」
「ラダが謝る事ではないよ。バカな奴らが悪いのさ。」
オウランがよしよしとラダの頭を撫でて慰めた。
「じゃあ、俺らも行くか。」
ビクトールが歩き出したのを機に皆も歩き出す。
「・・・あの・・・、何か問題でもあるの・・・?」
まったく訳が分からないルノがおずおずと聞いた。
ルックがルノの方を向いて言った。
「・・・ラダはいつも決まった時間に女風呂に入ってるのさ。その時間帯だけラダ専用として。」
「え?そうなの?でも・・・何で?」
「こいつが普通に男風呂に入ると異常に混んだりするしな、それに・・・誰もがずっとラダを眺め続けんだぜ?ラダにとっちゃ苦痛以外の何でもねえわな。しかも一度たまたますいていた時にあろう事か数人でラダにろくでもねえ事をしようとしたんだぜ?」
「っええっ!?」
「そん時ゃあ、まあこいつ強えし、騒ぎにテツやら通りかかった俺らやらが駆けつけて何もなかったがよ。」
ビクトールの言った事にルノは唖然としてしまった。
「・・・それ以来男湯には入らないようにしてるんです。それまでも嫌で仕方がなかったので女湯の提案を喜んで受けさせてもらいました。」
ラダが恥ずかしそうに言った。
「えー・・・」
「まあ、あんたもラダと一緒に入ればもしかしたら分かるんじゃない?」
「・・・ルックも分かるの?」
「いや、僕は別に。」
「だからルック好きなんです。」
ラダがニッコリとルノに言ってルックにくっついた。
ルックは、ちょっと離しなよ、と淡々と言っていた。
「でも、ルノさんだけは別ですよ。そうですね、ルノさんだけはどっちかと言うともうちょっと私にドキドキしてくれたらなって思うから。」
ちろっと横目でそう言ってルックをつかんだままラダは先に行った。
「惚れられてるねえ。」
オウランがルノに言った。
「え・・・、はあ・・・。」
「ふふ、あんたみたいにラダのうわべの色気に虜にならない男も珍しいね。だからこそラダもあんたが好きなんだろうね。」
「はあ・・・。一目ぼれって言われたけど。」
「それでもあんたが他の連中と同じようなら、ラダはとっくにあんたの事見限ってるさ。あの子は男に散々嫌な目に合わされてんだよ?基本的に男が好きな訳ないだろう?」
「ああ、そうだね・・・。でも、えっと、その、ラダはそういう嗜好なのかなって思ってたから。」
「そりゃそう思っても仕方ないか。でも違うよ。あの子は女も知ってるよ?」
「・・・ええっ!?」
ルノの素っ頓狂な声に、前を歩いていた3人が何事かと振り向いた。
ルノはごめん、何でもない、と口を押させて言った。
「驚かせちゃったね?まあ詳しくは言わないけどね。だから、男だからとかそんなのは関係ないんだよ。あの子はあんただから好きなんだっていう事さ。だから適当に流したままってのは、あたしとしてはいただけないね。」
オウランはニヤッと笑って言った。ルノは何か考えるように首を傾げていた。
風呂に着くと、フリックがテツに頼み、テツもきちんと対応してくれたようで、男風呂は誰もいない状態になっていた。
「じゃあ、あたしはこっちだから。あんたら、変な気、起こすんじゃないよ?」
「おう、分かってるよ。」
女風呂の方に入っていくオウランにビクトールが笑って言った。
「着替えはとりあえずテツが用意してる風呂備え付けの奴を借りとくか。」
フリックが言うように、脱衣所にはいくらか作衣のような服が置いてある。こういう場合に重宝する。
そして誰もいない風呂場に入った。
それぞれ体が冷え切っているので、さっと掛け湯をした後湯につかった。
「あーっ、これで酒でもあったら最高だな。」
「ビクトール、あなたはほんとにそればかりですね。」
ラダが呆れたようにビクトールに言った。
ビクトールがフリックに、お前もそう思うだろ?と振っている。
ルノはぼんやりとその光景を見ていた。
・・・確かに湯に浸かっているラダは妙な色気が増すのかもしれない。
ほんのり上気した頬。
少し濡れた髪。
湯から少し出ている華奢な肩。
普段何とも思わないルノも流石にラダの色気に気付かされる。
これではいつも変な目で見てるような奴らならまずいだろうな。
「何考えてんのさ?」
「え?ああルック。いや、確かに色気あるね。何気に男湯入ってこんな子がいたらびっくりするだろうね。」
「びっくりどころの話じゃないよ。ビクトール達もあんまりラダを見ないようにしてるだろ。」
そういえば2人共とりとめのない話をしながらもあさっての方向を見ているような気がする。あの2人ですら、か。
「・・・そういえばさ、最初の頃ラダはよくあんたばかりにくっつきに行ってたような気がするけど、最近あまり近寄らないね。何かあった訳?」
「え?」
そう言われてみると、ラダは前と変わらず話しかけてはくるけど、あまり自分と一緒にいないような気がした。
話すときはそばにいるが、またどこかに行ったり、別の誰かと話したりしているような気がする。
たまに何かあった時にぎゅっと抱きついてはくるが、またすぐに離れる。
「そう言われると、そうだね。」
「何それ。気付いてなかった訳?」
「うん。」
「・・・ラダも報われないね。多分それが原因かもね。」
「え?どういう意味?」
「・・・さあね。本人にでも聞いてみたら。」
言っている内にビクトールとフリックはさっさと髪と体を洗って出ていってしまった。
「あの人達ってほんといつもお風呂早いみたいですね。」
ラダが体を洗いながら同じく体を洗ってる2人に言った。
「ああ、あの2人なら昔から早かったよ。習慣だろうね、何があってもすぐ対応できるようにっていう。」
作品名:ルノ・ラダ ~白黒~ 作家名:かなみ